患者さんやご家族の方へ最適な医療を提供し、安全かつ納得のいく治療が提供できるよう体制を強化しています。

射線治療科 診療科部長 加藤弘之の写真

放射線治療科 部長

加藤 弘之

がん治療の主流へと向かう放射線治療

放射線治療とは、さまざまな種類の放射線を用いて、安全かつ効果的にがんを治療する方法であり、外科治療(手術)や薬物治療(抗がん剤など)と並ぶ重要な治療方法の1つになっています。神奈川県立がんセンター放射線治療科では、日本に7施設(2022年5月現在)しかない重粒子線治療を行っています。がんセンター併設型の重粒子治療施設は世界でも初めてとなります。

2022年4月重粒子線治療は公的医療保険の適用が広がり、これまでよりさらに身近ながん治療方法の選択肢となりました。これまで以上に患者さんが重粒子線治療を希望することが予測され、がんの3大治療の中でも、放射線治療は今後主流となっていくと考えています。

多くの謎を解き明かしていくことへの興味から医師の道へ

私は幼少時から科学(サイエンス)にとても興味がありました。そこから、医学というものを知った時に医学には分からないことが多く謎を解き明かしていくことへの興味を感じ、研究してさまざまな事を解明していきたいと思ったため、医師を目指そうと思いました。

医師を志すこととなった科学について、両親がきちんと理解できる環境を作ってくれたことが恵まれていた環境だったと思います。医師になって20年以上放射線治療に携わっていますが、この領域は目覚ましい技術革新を遂げています。そういう意味での放射線治療の在り方や、放射線治療に対する医療スタッフ・患者さんの認識の変化といった時代の移り変わりを経験できたことは非常に幸運だったと思います。医師を目指した時の初心の気持ちを忘れずに、今後もさまざまな研究を進めていきたいと思っています。

多くの種類の放射線治療が提供できる体制に

神奈川県立がんセンターでは、2015年12月から重粒子線治療*を開始しました。重粒子線治療装置は非常に大掛かりなもので、神奈川県立がんセンターにおいて重粒子線治療装置が設置されている建物は、敷地の3分の1を占めています。他にも、放射線に強弱をつけてがん細胞のみを集中照射できる強度変調放射線治療(IMRT)が行える放射線治療機器(ライナック)や、小線源治療が行える装置なども所有しており、多くの種類の放射線治療が提供できる体制を整えていますので、患者さんには豊富な選択肢を提案することができます。

当センターのX線治療の症例数は日本でも有数で、放射線物質を臓器に挿入して治療を行う小線源治療の経験も数多くあります。これだけの装置が揃っているのは日本の中でもごくわずかな限られた施設だけとなりますので、がんの治療を必要としているより多くの患者さんに提供していきたいと考えています。放射線治療は、一人ひとりの状態に合わせた治療が受けられるという大きな特徴がありますので、放射線治療を検討されている患者さんは、ぜひ当科にご相談ください。

*重粒子線治療:重粒子(炭素イオン)線を使った放射線治療のこと

治療開始前の患者さんへの説明を徹底し、
治療方針を定める

放射線治療は、放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療です。表面的に身体を傷つけることなく治療ができるので、傷口の痛みや治癒といった身体的な負担が少なく、治療が終わってからすぐに治療前と同じように生活を送ることも期待できます。しかしながら、放射線治療には、治療中に現れる副作用や、治療終了後には後遺症が出る可能性が割合としては少ないですが生じることがあります。
ですので、放射線治療を検討している患者さんには利点から先に説明するのではなく、副作用や合併症、後遺症の症状や発生頻度、転移など考えられる全ての起こり得る副作用を先にお伝えするようにして、治療についての理解を深めていただいた上で治療に向かっていただけるようにサポートしています。放射線治療の際には食事のことや治療を行っている時のことなど治療に関しては様々なお願い事項があります。

治療前に、その理由をしっかりと説明することで患者さん自身が納得して検査や治療に臨んでいただく必要があるので、しっかりと治療のことを患者さんやご家族の方と向き合って考えることを心掛けています。

重粒子線治療の特徴について

私が担当している重粒子線治療には、患者さんへの利点の観点から主に3つの特徴があると考えています。1つ目は、線量集中性と呼ばれるもので狙ったがん細胞だけ強く照射しダメージを与え、その周囲の正常な組織は線量をぐっと下げられることです。まわりの正常な細胞へのダメージを最小限に抑え、他の放射線治療に比べると副作用が少なくなるというメリットがあります。

2つ目は、がん細胞を死滅(細胞致死作用)させる力が強く、X線や陽子線より効果が高いということです。従来のX線治療では十分な治療効果が得られないような難治性のがんに対して、高い治療効果が期待できます。

3つ目は、1つ目の特徴によって達成されているものですが、他の放射線治療に比べると治療期間が短いことです。当センターでの放射線治療の期間は原則外来通院で概ね4日~16日間となっています。薬物療法や外科治療の場合は、入院が必要であったり、長期間に渡ったりすることが多いので放射線治療は治療時間も非常に短く、ご家庭やお仕事の事情で長期間の入院や治療に時間がかけづらい方にも推奨される治療法となります。

重粒子線治療の治療の進め方と難しさ

放射線治療は基本的に寝ている姿勢で行います。狙ったがん細胞を外さないように照射部位を安定させ確実に治療が実施できるよう、その姿勢をしっかり固定します。また、姿勢だけではなく正確な照射を行うために、治療前には患者さんに合った治療方針をしっかりと検討したうえで、治療中の姿勢が苦痛とならないように患者さんの身体に合わせた固定具の作成や治療計画作成のためのCT撮影を行っています。

照射は1日1回、実際の照射されている時間は1~2分程度です。照射前には入念に照射部位を確認して治療を行います。実際に照射されている時間より、この確認の時間の方が長く30分以上かかることもあります。これは放射線治療全般に言えることですが、治療効果は治療直後に確認できることはなく、数か月後に病変などの変化が確認できることがほとんどです。同じ場所にもう1度照射することは副作用が強くなるため、難しい場合が多いです。治療後に効果が確認できない、あるいは一度治ったようでも同じ部位に再発した場合には、患者さん・ご家族の方たちと治療方針をよく相談し、可能な治療方法を検討しています。

様々な職種のプロフェッショナルチームで最適な治療を

私が医師になったばかりの20年前の放射線治療はほとんど医師が準備して診療放射線技師に指示をするという流れでした。今となってはあり得ませんが、過去には私も治療開始ボタンを押して治療を開始することもありました。

近年では、重粒子線を含めた放射線治療は高度化し、さまざまな職種の専門スタッフとチームになり診療にあたっています。実際の治療においては、医師・医学物理士・診療放射線技師・看護師・受付スタッフ・エンジニアの多職種が集まり、最低週1回はミーティングを行い、問題が起こっていないか確認し合っています。専門スタッフの1人の医学物理士は、線量計算をする専門家で、がん細胞を狙って高い線量が投与できるようにコンピュータを用いて最適な放射線の照射方法を計算し、医師と最適な治療効果について検討します。診療放射線技師と共に治療を実施する前に治療の安全を確認し、治療開始をします。

このようなチーム体制での放射線治療を行うことで、普段から常に情報を共有して、患者さんやご家族の方へ最適な医療を提供し、安全かつ納得のいく治療が提供できるよう体制を強化しています。

重粒子線治療を希望する患者さんへ

現在当センターでの適応疾患は、主に前立腺がん、頭頸部非扁平上皮がん、頭頸部粘膜悪性黒色腫(メラノーマ)、肝がん、膵がん、肺がん(ステージ1)、骨軟部腫瘍などになります。現在、保険適応になっている疾患、先進医療の対象になっている疾患については、ほぼ網羅しています。

当院での精査・治療を希望される患者さんは、現在診療を受けている医療機関からのご紹介による予約のみとなります。紹介元の医療機関から患者支援センター初診受付に予約を入れて頂き、当院で臓器を担当する診療科へ最初に受診をして頂きます。受診後にカンファレンスを行い重粒子線治療の決定をする流れとなります。
今後の適応疾患の追加情報などについては、重粒子線治療電話相談窓口からご確認頂けます。重粒子線治療に関してのお問い合わせやご相談も可能です。個々の患者さんに最適な医療が提供できるよう努めてまいります。まずはお気軽にご相談ください。

重粒子線治療センター

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