神奈川県では、県内における悪性新生物(がん)の情報を継続的に収集し、登録・管理しています。神奈川県立がんセンターはこの事業の実施機関として県より事務委任を受け、400以上の県内医療機関から届けられたがん情報を一括管理しています。
後述する「全国がん登録」に対して、自治体が独自に行っているがん登録を「地域がん登録」と呼びます。神奈川県の地域がん登録は全国で5番目に早い1970年から開始され、53年もの長い歴史の間に蓄積されたデータは235万件にも及びます。
「日本人の2人に1人が一生のうちに一度はがんに罹患する」「がんの5年生存率が向上」といった話を耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。私達が普段耳にするこのような情報のおおもとになっているのが、がん登録なのです。「どれくらいの人ががんにかかり、どのような治療を受け、どれくらい生存したか」「男女別、年齢別にかかりやすいのはどの臓器のがんか」などの重要な情報を知る方法は、がん登録しかありません。
がん登録により得られた情報を活用することで、どの年代の人にどのようながん検診を実施するのが効果的かを検討したり、自治体としてどのようながん対策に力を入れていくかといった医療政策につなげたりすることができます。例えば一部の自治体では、がん登録の情報とがん検診の情報を突き合わせることで、がん検診の有効性を検証する試みがなされています。
このページでは、神奈川県のがんの現状について記載するとともに、各種がん登録事業の分類や創設経緯の解説を行っています。
神奈川県のがんの現状
がん登録について
院内がん登録ではがん患者さんのがんの部位や性状(組織型)、治療内容(手術、抗がん剤、放射線など)などの情報を収集・登録し、その予後調査(生存確認調査ともいいます)を行なっています。
院内がん登録の目的は、病院内の対がん活動の状況を把握し、がんの早期発見と治療、予後の向上に役立てること、ひいては地域レベル、国レベルのがん対策に寄与することにあり、また全国登録などの共同研究への参加を容易にして、研究・研修にも役立てることにあります。
そのために、院内におけるがん患者さんの把握漏れがないように、資料の収集、より正確・迅速な情報の入手と提供を主眼として1963年の開院より継続的に登録業務を行っています。
院内がん登録で集積された情報は、院内の各診療科や各部署への提供、神奈川県悪性新生物登録事業(地域がん登録)やがん診療連携拠点病院、全国がん(成人病)センター協議会などにも提供することで次の世代の新しい患者さんへ情報が活用されるように努力しています。
院内がん登録の内容は「がん診療連携拠点病院 院内がん登録 標準登録様式」に準拠して情報を収集し、部位および組織の分類・登録には『国際疾病分類-腫瘍学 第3版 (ICD-O-3)』を、TNM分類・ステージ分類には『UICC-TNM悪性腫瘍の分類』を使用しています。(2003年より)
院内がん登録では、「がん登録等の推進に関する法律」「院内がん登録の実施にかかる指針(厚生労働省告示第470号 厚生労働大臣指針)」に則り、がん診療を評価する指針として用いられる生存率の算定のために、登録させていただいたがん患者さんの生存確認調査を定期的に行い、情報を収集します。そのため、院内において情報が把握できなかった場合は、情報の的確な把握を目的として住民票照会による生存確認調査を実施しています。
また、神奈川県立がんセンター院内がん登録は「がん登録等の推進に関する法律」および「神奈川県個人情報保護条例」に基づき、個人情報の保護に努めています。
ご覧になりたい統計の表題をクリックしてください。
年次別院内がん登録の推移
性別年齢別登録数
地区別院内がん登録数
新規登録者初回治療状況
部位別院内がん登録数
部位別ステージ別登録数
1963(S38)年に神奈川県立成人病センターとして診療を開始した当時から、院内がん登録を行なっています。1963年当初は136件の院内がん登録がありましたが、1985(S60)年には712件までに増えています。
1986(S61)年に神奈川県立がんセンターと名称が変更になりました。神奈川県立がんセンターとしてスタートした1986年には971件でしたが、2009年には2,676件に増えています。
2010年より外来も含めた全新規登録を開始しました。2009年は2,676件でしたが、外来登録を始めたことにより2010年には3,446件となりました。また、2022年には5,929件に増えています。
2022年の院内がん登録を性別・年齢別に見ますと、男女ともに70歳代が最も多いことがわかります。
20歳代から50歳代までは女性が多く、60歳代以上は男性が多くなります。
神奈川県立がんセンターには、小児科がありませんので10歳代の患者さんは大変少ないです。
2022年の院内がん登録を地区別に見ますと、横浜市が最も多く、次いで大和市、相模原市が多いことがわかります。県外から受診される方も多く見られます。
2022年の地域別登録数のなかで一番多い横浜市の中でも、旭区が一番多く、次いで瀬谷区、泉区が多いことがわかります。
横浜市以外の県内市町村では大和市に次いで相模原市、藤沢市とがんセンターのある旭区周辺からの受診される方が多いことがわかります。
県外の中では近隣の東京都が最も多く受診されています。
がんの治療には手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤やホルモン剤など)などがあります。これらの治療法をがんの状況に応じて単独または併用して治療を行います。
初回治療は各疾患の標準的治療または診断から4ヶ月以内に行なわれた治療方法を基に登録しています。
2022年の院内がん登録患者の治療状況では、手術のみが一番多く、ついで治療なしが多くなっています。
治療なしの中には、がん登録の規定には当てはまらない治療が行われている場合、すでに他病院で治療が済んでいる場合、経過観察も含まれています。
2022年の院内がん登録を部位別に見ると、肺がんが最も多く、次いで、前立腺がん、乳がん、膵臓がん、胃がんの順に多いことがわかります。
わが国で多い胃がん、大腸がん、肝がん、肺がん、乳がん(主要5部位)に加え、当センターで登録数の多かった膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、食道がん、悪性リンパ腫について集計しました。
登録数の集計は『国際疾病分類-腫瘍学 第3版 (ICD-O-3)』で登録した内容を、ICD-10(疾病、傷害および死因統計分類提要)に変換、集計しています。
治療前ステージ分類は『UICC-TNM悪性腫瘍の分類』で分類しています。
※ 「適応外・不明」とは『UICC-TNM悪性腫瘍の分類』の条件に合わなかった場合や他施設からの紹介で治療前のUICCによるステージがわからなかった場合が含まれています。
治療内容の略称については、下記の表をご覧ください。
肺がんの登録数は肺、主気管支に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、悪性リンパ腫、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
男女ともに60歳代後半から増加し、70歳代が最も多く、女性よりも男性のほうが多いことがわかります。
UICC治療前ステージの割合では、不明・適応外が最も多く29.4%を占めています。次いでⅣ期が29.0%を占めています。
肺がんの治療法は組織型、肺内のがんの発生部位、合併症により選択されます。
Ⅰ期・Ⅱ期は手術の適応が多く、進行するにつれ薬物治療、放射線治療が行われています。
合併症などによる治療なしの割合が多く見られます。(肺炎・COPD:慢性閉塞性肺疾患・喫煙・心不全・など)
肺がんに多くみられる組織型は腺癌、扁平上皮癌です。
治療は腺癌・扁平上皮癌などを含む非小細胞癌と小細胞癌の違いによって選択される治療方法の優先順位が変わります。
前立腺がんの登録数は前立腺に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICCステージの集計では、悪性リンパ腫、肉腫は適応外とし、腺癌を集計しています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、60歳代から増加し、70歳代に最も多く見られます。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅠ期が最も多く約56.3%を占めています。
前立腺がんの治療法の主なものには、薬物治療、手術、放射線治療があります。
薬物治療は抗がん剤による化学療法とホルモン剤によるホルモン療法があります。
高齢者に発症することが多いがんのため、がんの進行度合だけで治療法を選択するわけではなく、合併症やご本人の状態によって治療はせず経過観察を選択することもあります。
薬物治療はステージⅠ期からⅣ期まですべてのステージで行われています。
前立腺がんはほぼ腺癌が占めています。
乳がんの登録数は乳腺に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、悪性リンパ腫、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、40歳代から増加し、最も多く見られます。女性が罹りやすく、男性の登録もあります。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅠ期が最も多く32.1%を占めていますが、0期とⅠ期を合わせますと46.0%を占めており早期に発見されていると考えられます。
乳がんの治療法は手術、放射線治療、薬物治療があり、これらを組み合わせて行います。
乳がんの手術には、乳房部分切除(乳房温存手術)と乳房全摘があり、全摘した場合は再建も可能です。
放射線治療は原則として乳房温存手術した場合には全例、乳房全摘した場合ではリンパ節転移が多い例に行います。
薬物治療には分子標的治療を含む化学療法、ホルモン療法などがあります。
乳がんの生存率を高めるためには薬物治療が重要で、癌の性質に応じた薬物治療をエビデンスに基づいて行います。
乳がんのほとんどが乳房内の乳管(お乳が通る管)から発生する乳管癌といわれる癌です。
非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌で83.5%を占めています。(非浸潤性=上皮内癌)
膵がんの登録数は膵臓に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、悪性リンパ腫、カルチノイド、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、50歳代半から急増し、70歳代で最も多く見られます。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅣ期が最も多く約42.3%を占めています。
膵がんは早期発見が課題となっています。
膵がんの治療法の主なものには、外科的治療、薬物治療(化学療法)があります。
癌の増大による胆管狭窄や腸管の閉塞に対しては、内視鏡による胆管ステント治療や腸管ステント治療、あるいは手術などが行われています。
薬物治療はステージⅠ期から行われますが、手術等との組み合わせ治療として選択されることもあります。
膵がんは膵管から発生する腺癌が65.2%を占めています。
大腸がんの登録数は結腸、直腸に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、悪性リンパ腫、カルチノイド、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、60歳代から急増し、70歳代が最も多く見られます。
女性よりも男性のほうが罹りやすいことがわかります。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージ不明・適応外が最も多く30.4%を占めています。
大腸がんに「適応外・不明」が多い理由としては、『UICC-TNM悪性腫瘍の分類』のステージ別集計条件に合わなかった場合や他施設で治療済みの場合以外に、精密検査を兼ねて行った内視鏡検査中に切除した場合や良性としてポリープとして切除した部分にがんが見つかり、その後に外科的切除が行われない場合は治療前のステージを不明に分類するためです。また、進行がんの患者さんが来院されることが多くなっていると考えられます。
早期である0期では優先して内視鏡治療が行われますが、Ⅰ期を超えると外科的手術、体腔鏡手術などの外科的治療が選択されます。
大腸がんではⅣ期でも手術が行われていますが、腸管の閉塞に対する手術が含まれています。
ステージが進行すると手術療法と抗がん剤による薬物療法を組み合わせて行われます。
大腸がんの組織型は80.6%が腺癌です。
胃がんの登録数は胃に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、悪性リンパ腫、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、50歳代から増加し、70歳代が最も多く見られます。
女性よりも男性のほうが罹りやすいことがわかります。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅠ期が最も多く42.2%を占めており、早期に発見されていると考えられます。
次いでⅣ期が24.1%を占めています。
胃がんの治療法はⅠ期、Ⅱ期は手術が優先して行われます。手術の内容としてⅠ期では内視鏡による切除が優先して行われます。
Ⅱ期およびⅢ期では手術に加え薬物療法を組み合わせて行われます。
Ⅳ期は薬物療法のみの治療が多くなります。
治療前ステージに不明が多い理由としては、精密検査を兼ねて行った内視鏡検査中に切除した場合や良性としてポリープなどを切除し、その切除した部分にがんが見つかることが多いためです。この場合その後に外科的切除が行われない場合は治療前のステージは不明となります。
胃がんの組織型は94.4%が腺癌です。
食道がんの登録数は食道に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICCステージの集計では、食道に発生したリンパ腫を除いた癌腫を集計しています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、食道がんは50歳代から増加し、70歳代に最も多く見られています。
女性よりも男性のほうが罹りやすいことがわかります。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅣ期が最も多く34.4%を占めています。
食道がんの治療法の主なものには、手術、放射線治療、薬物治療があります。
食道がんは0期では内視鏡による切除、Ⅰ期でも手術による切除が選択されます。
Ⅱ期以上では手術に加え、放射線治療、抗がん剤による薬物療法が検討されます。
食道がんは扁平上皮癌がほとんどです。
子宮がんの登録数は子宮頚部、子宮体部に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、子宮頚部は悪性リンパ腫、肉腫は適応外とし、癌腫で分類をしています。
子宮体部は悪性リンパ腫は適応外とし、癌腫、肉腫を集計しています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、子宮頚がんは30歳代から増加し、30歳代から40歳代に最も多く見られています。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージ0期が最も多く41.9%を占めています。
「適応外・不明」には『UICC-TNM悪性腫瘍の分類』のステージ別集計の条件に合わなかった場合、他施設で治療済みの場合が含まれています。
子宮頸がんの治療法の主なものには、手術、放射線治療、薬物治療があります。
0期の治療は子宮を残すことができますが、Ⅰ期になると子宮切除も検討されます。
Ⅰ期でも侵襲がみられる場合は(程度によって)リンパ節の郭清や抗がん剤による薬物療法、放射線療法が検討されます。
Ⅱ期以上の場合や手術ができない場合は放射線治療が検討されます。
治療なしには、年齢・がん以外の病状の理由により治療ができなかった場合、がん以外の病状や居住地の関係で他病院に移られた場合、経過観察を選択された場合などが含まれています。
子宮頚がんは扁平上皮癌または腺癌がほとんどですが、扁平上皮癌が81.1%を占めています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、子宮体がんは40歳代後半から増加し、50歳代から60歳代に最も多く見られています。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅠ期が最も多く57.1%を占めています。
「適応外・不明」には『UICC-TNM悪性腫瘍の分類 第7版』のステージ別集計の条件に合わなかった場合、他施設で治療済みの場合が含まれています。
子宮体がんの治療法の主なものには、手術、放射線治療、薬物治療があります。
子宮体がんは手術が最も一般的な治療として選択されます。
手術の結果によって抗がん剤による薬物治療や放射線治療の追加が検討されます。
治療なしには、年齢・がん以外の病状の理由により治療ができなかった場合、がん以外の病状や居住地の関係で他病院に移られた場合、経過観察を選択された場合などが含まれています。
子宮体がんは腺癌がほとんどです。
肝がんの登録数は肝臓に発生したリンパ腫を除いた癌腫、肉腫を集計しています。
UICC治療前ステージの集計では、肝臓の肝細胞がんを集計しています。
胆管がんについては集計に含まれていません。
年齢階級別性別登録数を見ますと、50歳代から増加し70歳代で最も多く見られます。
女性よりも男性のほうが罹りやすいことがわかります。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅠ期が最も多く約36.7%を占めています。
次いでⅣ期が多く見られます。
肝がんの治療では背景の肝機能を考慮しながら、手術・局所療法(経皮的ラジオ波熱凝固療法(RFA))・
経動脈的治療(肝動脈化学塞栓術(TAE、TACE))・肝動注化学療法(TAI)・全身化学療法・放射線治療、あるいはこれらの組み合わせ治療から選択します。
グラフの「その他の治療」には経皮的ラジオ波熱凝固療法が含まれています。
肝がんの組織型は肝細胞がんが占めています。
悪性リンパ腫の登録は部位に限定されません。検査において組織型がリンパ腫と診断されたものを集計しています。
UICCステージの集計では、悪性リンパ腫を集計しています。
年齢階級別性別登録数を見ますと、悪性リンパ腫は50歳代から増加し、70歳代に最も多く見られています。
年代により性別での差はありますが、全体の登録数では性別による差はほとんど見られません。
UICC治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅣ期が最も多く38.1%を占めています。
悪性リンパ腫の治療法の主なものは薬物治療ですが、ステージのみで治療法が決まるのではなく、悪性リンパ腫の種類、年齢、全身の状態、血液検査によって検討がされます。
悪性リンパ腫の種類や発生部位によって、注意深い経過観察や手術が行われることもあります。
また、薬物治療後に造血幹細胞移植が行われる場合もあります。
悪性リンパ腫は成熟B細胞リンパ腫が約82.3%を占めます。
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