リハビリテーションを通じて、一人でも多くのがん患者さんの力になっていきたい。
リハビリテーション技術科 作業療法士
結城 士
近年がん治療におけるリハビリテーション医療は重要な役割を担うようになってきています。日本では2人に1人ががんに罹患する時代と言われています。がんの治療とともに受けるリハビリは体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力の維持・向上をさせるために必要不可欠となります。診断された直後から、支持療法の一環として心と体の様々なつらさに対処する目的でも行われています。
私は高校時代にバスケットボール部に在籍していました。部員が怪我をしてリハビリを受けたという話を何度か耳にしましたが、その当時はあまりリハビリについてよくわかっていませんでした。大学受験で県内の大学を探しているときにリハビリの大学があることを知り、リハビリについて調べ始めました。作業療法士は身体機能の治療だけではなく、食事・着替えなどの生活に欠かせない行為の訓練や、社会に参加・復帰するための訓練、さらに精神面・心理面の領域についても係わる専門職です。当時の私は自分の性格上、患者さんの精神面・心理面の領域に係わる仕事は向いているのでは、と思い作業療法士を志しました。
大学卒業後、福島県の総合病院に就職しました。就職して2年目の時に東日本大震災に遭いました。病院のダメージは大きく、復興の手伝いや系列病院の手伝いをしていました。新病院への建て直しを機に緩和ケア病棟が新設され、リハビリテーション科からは私が立ち上げメンバーとして選ばれました。緩和ケア病棟でのリハビリはそれまでメインで行っていた脳疾患の患者さんとは違って、その時期に受けている治療や体調に合わせたリハビリを通してQOLを高めることが必要となります。文献を読んだり、勉強会に出て、模索しながら行っていました。そんな時、この患者さん達はどんな治療を受けてきたのだろうかと気になり、本格的にがんのリハビリを学んでみたくなり、静岡がんセンターで作業療法士の研修生に応募しました。2年間の研修を終えて、現在の神奈川県立がんセンターでの勤務となりました。患者さんががんの治療を受けている際に、トイレやお風呂に入ったりするなどのセルフケアが上手くできなくなったり、また精神面でも落ち込むことがあります。がんの治療を受けながらリハビリを行うことで患者さんの生活スタイルの維持や、やりたいことが少しでもできるようにサポートすることを一番に考えています。
私の所属するリハビリテーション技術科は、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の合計10名未満のチームです。スタッフのコミュニケーションは大変良好です。患者さんのことは定期的にカンファレンスで情報共有を行っています。それ以外にも日常会話の中で情報共有することが多いです。
当科では、これから手術を受ける、今日から抗がん剤が始まる、そしてだんだん治療も終盤といったように、様々な時期の患者さんに関わります。その時期にあったリハビリを提案しています。中にはがん以外の病気が併存している患者さんもいます。また、治癒を終えて家に帰りたいけど身体が思うように動かない場合もあります。当科ではこのような多様な状況に置かれた患者さんをサポートしています。その中で気を付けていることは、患者さんの話をよく聞くことです。加えて、主治医、看護師とよく話をすることです。カルテから読み取れないこともたくさんあるので、情報を得るように心掛けています。1人でも多くの患者さんに満足のいくリハビリの提供と精神面・心理面でのフォローができるよう努力しています。
当科の療法士は全員話しやすい雰囲気を持っています。患者さん一人ひとりをよく見て対応を考えています。時にはリハビリテーション室でしか聞けない話が飛び出すこともあります。患者さんが少しでも元気になる場所であればと思っています。
私が担当した患者さんに手術直後から復職に不安を抱いている方がいらっしゃいました。私は問題なく復職できると考えていたのですが、いくら言葉で伝えても不安を取り除くことはできず、仕事中に思うように手があがらなくなったらどうしよう、今後も仕事は続けられるのかと悩んでいました。その方はピアニストでした。リハビリ中にピアノを弾いてみたらと声を掛けてみました。おそるおそる弾き始め、弾き終わるころには近くにいた患者さんから拍手がわきました。
リハビリはできないことをできるようにしていくものですが、元の生活に戻れるという自信を回復してもらうことも大切だと思いました。
ご存知のように神奈川県立がんセンターは、最先端技術が集結されたがん治療の専門病院です。患者さんにとって一番大切な治療とともにリハビリもスタートすることで「家でも元気に過ごせる時間が増えました」「やりたいことができる時間が持てました」と言ってもらえることが目標です。
治療の進歩とともに、こんなリハビリが適しているなどまだ教科書にはないリハビリの効果について将来的にどこかで発表ができたらいいなと考えています。また後輩にこの分野に興味をもってもらえるように頑張りたいです。
現在、当科のリハビリは入院患者さんが対象ですので、退院後の生活のフォローについては十分とは言えません。在宅でのがんのリハビリはニーズが非常に高いと考えられます。地域の中に治療を受けながらリハビリができる環境が必要だと思います。地域との連携も強めていく必要があると思います。
このような目標を掲げながら、一人でも多くのがん患者さんへの力になっていけたらと考えております。
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