外見の変化による苦痛を和らげ、その人らしく過ごせるように支援したい!

アピアランスサポートセンター看護師 村田美梨の写真

アピアランスサポートセンター 看護師

村田 美梨

脱毛、肌のくすみ、手術後の傷等、がんの治療によって患者さんの外見が変化することがあります。自分自身の変化への違和感や「人からどう思われているんだろう」と気になる患者さんにとっては治療と共に辛い体験です。この苦痛を軽減することでその人らしく過ごせるようになるのではないかという考えのもと始まった「アピアランスケア」。開設以来、多くの患者さんが訪れ、相談員と共に一緒に考え、自分らしさを見出せるようサポートしています。

2015年にアピアランスサポートセンターをスタート

「がんは治療しても治らない病気」という時代から、医療の進歩により回復し社会復帰される方が増えています。治療をしながら、そして治療が終わってからも、社会生活を行っていく上で、治療に伴う外見の変化で苦しんでいらっしゃる方も少なくありません。神奈川県立がんセンターでは、外見の変化による患者さんの苦痛を少しでも軽減できるよう、2015年にアピアランスサポートセンターを開設いたしました。当院に通院されている方や入院されている方だけでなく、全ての方にご利用いただける相談窓口となっています。

外見の変化をケアすることで苦痛が軽減される

「アピアランスケア」は「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」とされています。手術痕や抗がん剤による脱毛が気になって人に会えない、仕事に行きづらいなどの方の相談とケアを看護師、ソーシャルワーカーと対応しています。昨年はコロナで利用者は少なかったのですが、当院の患者さんだけでなく外部からも含め、年間、400人ぐらいの方と面談をおこなっています。全ての方がアピアランスの対象というわけではなく、治療に伴う外見の変化があっても、今までの生活と変わらないし、人とも会える、社会生活が送れるという方に関しては特に必要としないケアかもしれません。

抗がん剤による脱毛の相談が一番多い
一番多い相談は、抗がん剤治療に伴う脱毛の相談です。今まで髪の毛が抜けるという経験をされたことがなく、脱毛に伴う気持ちの辛さや脱毛に向けてどのような準備をしたらいいのかなどの相談される方がいらっしゃいます。乳房切除した後の補正下着や温泉に入るとき裸になって乳房を見られると恥ずかしいとの相談をされる方もいらっしゃいます。脱毛時の生活の工夫やウィッグ選びのポイント、黒ずんだ爪のケア、肌の色をカバーするファンデーション、補正下着などの相談対応をしております。
他人からどう見られるかよりは、自分自身がどうしたいかを大切にして頂き、自分らしく生活できることを目指して、サポートしています。外見の変化は痛いとか苦しいという身体的な症状ではないので、今まではあまり理解されていませんでしたが、少しずつ患者さんの心情をきちんと理解し、心理面のケアが行えるようになってきました。
なりたい自分が見つかるまで一緒に考える

相談される方は医師から抗がん剤治療を提案され、「副作用で髪の毛が抜けます」と告げられた直後に医師や医療スタッフに勧められて相談にいらっしゃる方もいます。今まであった髪の毛がなくなる、髪の毛の手入れに気を遣って毎月美容院に行ってカラーリングやカットをしてきて、今まで大切にしてきたものが突然なくなってしまう、その現実を突きつけられ、動揺した状態で相談にいらっしゃいます。ここでは情緒的なサポート(心のケア)と、今までの自分に戻ると言うよりはこれからどんな自分でいたいかをお聞きして、どんなケアをしたらその目標に近づけるかを一緒に探っていきます。具体的になりたい自分が見つかるまで、何度でも来てくださいと声をかけています。治療が始まっても髪の毛はすぐに抜けるものではないので落ち着いて準備していきましょうとお伝えをします。ウィッグはオーダーメイドでもない限り、髪の毛が抜けてからでもその場で購入できるものもありますし、「思ったより気にならないから帽子で十分間に合う」と言って購入されない方もいらっしゃいます。

温泉やおしゃれを楽しむことができる

髪の毛以外では、乳がんの手術で乳房を切除する時に相談されることも多いです。乳房を再建する方法もいろいろあり、どの方法がいいかという相談や補正下着がどんなものがいいのかという相談もあります。再建術の方法は院内の乳がん専門看護師や形成外科医との連携をとります。補整下着に関しては基本的には最初から特別なモノを準備するよりは自分が持っているもので工夫をして対応することができることをお伝えします。切除後は温泉の大浴場に行くのが辛いなって感じると思いますが、乳がんの方でも個室であったり、肌着を着用して安心して入れるような温泉施設もあります。ご希望の方にはリストが載っているパンフレットをお渡ししたりしています。
また、治療の影響で肌の色が黒ずんできたり、爪も色が変わったり変形したりすることもあります。手先は自分の目につきやすいこともあり、脱毛に続いて多い相談です。一緒にマニキュアを塗ったり、ネイルシールを貼ったりしておしゃれを楽しむ感覚でケアをします。黒い皮膚や手術痕も自然に隠せるファンデーションが開発されているので、サンプルを使って見比べてみると全然わからないと言われます。「気持ちが楽になりました」と言われると嬉しくなります。

患者同士の交流が笑顔になれるきっかけに
院内には患者さん同士が交流できる「情報コーナー」というスペースがあります。コロナ禍になる前は、毎月メイクセミナーを開催して、患者さん同士が一緒にどうやってメイクしたらいいのか効果的な方法を情報交換できる交流会を行っていました。また年に一回、ウィッグや補正下着のメーカーの方を招いて、実際に試着できるイベントも開催していました。対面で相談員と二人だけで話すことも大切ですが、当事者の方たちが一緒にウィッグを被ったり、メイクを試してみて「それいいんじゃない」って言い合ったりすると、みなさん笑顔になれるんですよね。
対面でのイベントが難しくなってからは、がん患者さん同士がおしゃべりできる患者サロンを2021年の夏からオンライン上に設けています。
面談後の嬉しい報告にやりがいを実感

面談後はアンケートをお願いしてニーズや満足度を確認しているのですが、ほとんどの方から「すごく役に立った!」と回答してくださいます。「ありがとうございました!これで一歩前に進めます」といった前向きなコメントを書いてくださる方が多く、対応して本当によかったと心から思います。面談で気分を落ち着かせて、その後、「こんなウィッグ買いました!」と見せに来てくれたり、「こんないい方法を見つけました!」と情報提供してくださったり、喜んでもらえていると実感することが多く、日々のモチベーションに繋がっています。

技術提供だけでなく、コミュニケーションを大切にしたい

予約制ではありませんので、時間内であれば、困っている、相談をしたいと思った時に気軽に立ち寄っていただいてかまいません。病院の待ち時間の合間にふらりといらっしゃる方もいます。
コロナが落ち着いたら、アピアランス教室をまたスタートさせたいですね。治療をしながらもそれなりに快適な日常生活を送る方法が見つかることをお伝えし、共に模索していきたいと思います。初めて相談に来られた時に暗い表情だった人が、自分の中で「こうしてみようかな」ということが一つでも見つかり、帰り際は晴れやかな笑顔になって帰ってもらえる、そんな場所にしたいと思っています。

一覧へ戻る

トップへ