医療関係者の方へ

重粒子線治療の対象となる疾患(医療関係者向け)

2020.05.29版

はじめに

重粒子線治療は体に負担が少なく、年齢や併存疾患等で他治療が選択できない患者さんも対象になります。しかし全ての病状に対して行える治療ではなく、各疾患の共通の条件として以下の項目を満たすことが必要になります。

  • 画像上病変が確認でき、限局性病変であること
  • 重粒子線治療を根治的治療として行うこと
  • 少なくとも30分間程度は安静な状態で横になれること
  • 治療開始時のPS(ECOG Performance Status)が0-2であること
  • がんの告知を受け、重粒子線治療を自分の意思で希望していること

なお重粒子線治療の適応はキャンサーボードによる総合的な判断を必要とします。受診後の検討の結果、重粒子線治療の適応とならない場合もあります。

 

適応疾患

重粒子線治療は、公益社団法人日本放射線腫瘍学会の主導により作成された適応症と統一治療方針に基づいて実施します。詳細はリンク(外部リンク:保険診療先進医療)をご確認ください。
当院において重粒子線治療の対象となる疾患の一覧をお示しします。

 

保険適応

頭頸部悪性腫瘍、骨軟部腫瘍、肝細胞癌、肝内胆管癌、膵癌、大腸癌及び子宮頸部腺癌237,500点(237万5千円)
前立腺癌160,000点(160万円)
自己負担割合は0~3割、高額療養費制度の利用可

頭頸部 頭頸部悪性腫瘍(口腔/咽喉頭/鼻副鼻腔の扁平上皮癌を除く)、頭蓋底悪性腫瘍
照射回数 16回、治療期間 4週間
前立腺 限局性前立腺癌・局所進行前立腺癌
照射回数 12回、治療期間 3週間
骨軟部 切除非適応限局性骨軟部腫瘍
照射回数 16回、治療期間 4週間
肝臓 肝細胞癌(直径4cm以上のもの)、肝内胆管癌
照射回数 4回・12回、治療期間 1週間・4週間
膵臓 局所進行性膵癌
照射回数 12回、治療期間 3週間
大腸 局所大腸癌術後骨盤内再発
照射回数 16回、治療期間 4週間
子宮 局所進行性子宮頸部腺癌
照射回数 16回、腔内照射 3回、治療期間 4週間

 

先進医療

先進医療にかかる費用(重粒子線治療技術料)は照射回数に関わらず一連の治療で350万円となり、全額自己負担になります。なお、先進医療特約はご利用可能です。詳しくは保険会社へお問い合わせ下さい。
重粒子線治療技術料以外に発生する診察、検査、薬代などについては健康保険が適用できます。

食道 食道癌(臨床病期 I期(TNM分類 第7版))
照射回数 12回、治療期間 3週間
非小細胞肺癌(臨床病期 Tis, T1-4N0M0, 隣接臓器浸潤症例は除く)
照射回数 4回・12回、治療期間 1週間・3週間
肝臓 肝細胞癌(4cm未満のもの)
照射回数 4回・12回、治療期間1週間・4週間
子宮 子宮頸癌(腺扁平上皮癌)(臨床病期 II-IVA)
照射回数 16回、腔内照射 3回、治療期間 5週間
婦人科 婦人科領域悪性黒色腫
照射回数 16回、治療期間 4週間
肺転移 少数個肺転移(3個以下、原発巣を含め他病変が制御されている)
照射回数 4回・12回、治療期間 1週間・4週間
肝転移 少数個肝転移(3個以下、原発巣を含め他病変が制御されている)
照射回数 4回・12回、治療期間 1週間・4週間
リンパ節転移 少数リンパ節転移(原発巣を含め他病変が制御されている)
照射回数12回・16回、治療期間 3週間・4週間

 

頭頸部腫瘍

対象
  • 非扁平上皮がん(腺がん、腺様嚢胞がん、粘表皮がん等)
  • 粘膜悪性黒色腫
  • 頭頸部領域の骨軟部悪性腫瘍(骨肉腫、軟部肉腫等)
適応
  • 組織学的に診断された頭頸部がんである。
  • 他の臓器やリンパ節に転移がない。
重粒子線治療

原則として:57.6Gy(RBE)あるいは64.0Gy(RBE)/16回(1日1回(20-30分)、週4回、4週間の治療)腫瘍の組織型や部位によって照射線量の増減があります。

期待される治療効果*

非扁平上皮癌および粘膜悪性黒色腫:5年局所制御率76%、5年生存率65%
頭頸部骨軟部悪性腫瘍:5年生存率60-70%

予測される主な有害事象*

照射部位に含まれる正常組織(皮膚、粘膜など)に有害反応が出現します。また、腫瘍と近接する脳や脊髄、視神経に晩期有害反応が出現することがあります。
治療後しばらくしてから、治療した部位の皮膚、粘膜、骨などが感染、壊死を起こして欠損し、徐々に進行・拡大することあります。

* 多施設共同後向き観察研究(J-CROS, 2015)データ

 

前立腺癌

対象

限局性および局所進行前立腺癌

適応
  • T1c-T3, T4(膀胱頸部浸潤)N0M0の原発性前立腺癌(TNM分類 第7版に準拠)である
  • 病理組織学的検査によるGleason Scoreが明らかである
  • 生検前のPSA値が明らかである
リスク分類と治療方針の原則

治療前PSA値、臨床病期、Gleason Scoreにより、以下の3群に分類し、中高リスク群に対してはホルモン療法を併用する。

低リスク:PSA 10ng/mL未満, Gleason Score 6以下, T1c-T2aN0M0を全て満たす
重粒子線治療単独とし、ホルモン療法は併用しない

中間リスク:低リスクおよび高リスク以外の症例
短期ホルモン療法を併用(併用時期は重粒子線治療前および治療中で、総投与期間は最低6か月間)

高リスク:PSA 20ng/mL以上, Gleason Score 8以上, T2c以上のいずれか1つを満たす
長期ホルモン療法を併用(併用時期は重粒子線治療前、治療中および治療後で、総投与期間は最低2年間)

 

重粒子線治療

総線量51.6Gy(RBE)/12回(週4回、3週間の治療)

ホルモン療法

CAB療法が原則ですが、LH-RH単剤も可としています

期待される治療効果*

5年生化学的非再発率:低、中リスク群 90-95%、高リスク群85-90%

予測される主な有害事象*

治療した部位に含まれる正常組織(尿道、膀胱、直腸、皮膚)に有害反応が出現する可能性があります。
尿路(頻尿、血尿など):5-6%未満(Grade 2以上の反応)
直腸(血便など):1%未満(Grade 2以上の反応)

* 多施設共同後向き観察研究(J-CROS, 2015)データ

 

骨軟部腫瘍

対象

切除非適応限局性骨軟部腫瘍

適応
  • 組織学的に診断された原発性悪性骨軟部腫瘍、もしくはそれに準ずる腫瘍である
  • N0M0である
  • 根治的切除非適応である
  • 照射範囲に金属固定具などの治療に影響を及ぼす人工物を有さない

骨軟部腫瘍は部位や組織型が多岐にわたっており適応判断が難しい場合があります。また、手術や化学療法を併用することにより適応となる場合もありますので、お気軽にご連絡ください。

重粒子線治療
  • 脊索腫(C3以下):総線量67.2Gy(RBE)/16回(週4回、4週間の治療)
  • その他の骨軟部腫瘍:総線量70.4Gy(RBE)/16回(週4回、4週間の治療)
期待される治療効果*

種々の組織型を含む解析:5年局所制御率68%、5年生存率65%

予測される主な有害事象*

照射部位に含まれる正常組織(皮膚、神経、骨、消化管など)に有害反応が出現する可能性があります。

* 多施設共同後向き観察研究(J-CROS, 2015)データ

 

食道癌

対象

臨床病期I期 食道癌

適応
  • 組織診で診断された原発性食道癌である
  • 手術非適応である
  • 臨床病期I期症例(TNM分類 第7版に準拠)である
重粒子線治療
  • 総線量 48.0-50.4Gy(RBE)/12回(週に4回、合計12回(3週間)の治療)
  • 金属クリップの留置が必要になります
期待される治療効果*

3年全生存率:100%、4年全生存率:83%

予測される主な有害事象*

照射範囲に含まれる正常組織(食道、皮膚、肺、気管など)に有害反応が出現する可能性があります。

* Yasuda S. 2014, Carbon-Ion Radiotherapy. Principle, Practice, and Treatment Planning, Tsujii H. eds., Springer, Chapter 23

 

肺癌

対象

限局性肺癌

適応
  • 組織診、細胞診または臨床的に診断された非小細胞肺癌である
  • 手術非適応例である
  • Tis、T1-4N0M0(隣接臓器浸潤例によるT4は除く)(TNM分類 第8版に準拠)である
重粒子線治療
  • 総線量 64Gy(RBE)/4回(週に4回、合計4回(1週間以内)の治療)
  • 上記の線量分割が困難な症例では 64.0-72.0Gy(RBE)/12-16回)(週に4回、3-4週間の治療)
  • 気管支鏡下で金属マーカーの挿入が必要な場合があります
期待される治療効果*

臨床病期I期(末梢型)
 3年局所制御率: 88%(IA期 92%、IB期 78%)
 3年全生存率: 83%(IA期 86%、IB期 76%)

予測される主な有害事象*

皮膚、胸壁・肋骨、肺・気管支に有害事象が出現する可能性があります。
Grade 3以上の有害事象の割合:2%以下

* 多施設共同研究(J-CROS, 2015データ)

 

肝臓癌

対象
  1. 肝細胞癌
  2. 肝内胆管癌
適応
  • 組織学的または臨床的に診断された肝細胞癌あるいは胆管細胞癌である
  • 他臓器転移がなく限局性の病変である
  • Child-Pugh分類がAまたはBである
  • 消化管に広く接しない
重粒子線治療
  • 総線量 60Gy(RBE)/4回(週に4回、合計4回(1週間以内)の治療)
  • 消化管等に近接した症例では、12回(3週間)の治療
  • 金属マーカーの挿入が必要な場合があります
期待される治療効果*

3年局所制御率: 86%
3年全生存率: 82%(単発)

予測される主な有害事象*

皮膚、皮下組織、肋骨、消化管、肝機能に有害事象が出現する可能性があります。
Grade 3以上の有害事象の割合:3%未満

* 多施設共同研究(J-CROS, 2015データ)

 

膵臓癌

対象
  1. 局所進行膵癌
  2. 膵癌術後局所再発
適応
  • 細胞診あるいは組織診で膵臓原発の浸潤性膵癌と診断されている
  • 局所進行膵癌の場合、臨床病期I、II、III期(TNM分類 第8版に準拠)である
  • 消化管粘膜面に直接浸潤していない
  • 胆管内に金属製ステントの留置がない(プラスチック製は治療可能)
重粒子線治療
  • 総線量 55.2Gy(RBE)/12回(週に4回、合計12回(3週間)の治療)
  • 原則としてGemcitabineを併用
期待される治療効果*

局所進行膵癌症例:Gemcitabine併用症例の2年生存率は48%*
術後再発症例:2年生存率 51%**

予測される主な有害事象*

Grade 3以上の有害事象として、血液毒性、食欲不振、胃潰瘍・出血、腫瘍内感染が報告されています

* 先行施設データ(Shinoto M et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys, 2016; 95: 498-504, Kawashiro et al. Radiother Oncol, 2018; 129: 101-104)

 

大腸癌

対象

大腸癌術後骨盤内再発

適応
  • 原発性大腸癌切除後の組織学的もしくは臨床的に再発と診断されている
  • 再発病変が骨盤内に限局しており、骨盤外に再発病変がない
  • 消化管浸潤がない
  • 吻合部再発でない
  • 照射領域に開放創あるいは活動性で難治性の感染を有さない
重粒子線治療

総線量 73.6Gy(RBE)/16回(週に4回、合計12回(4週間)の治療)

期待される治療効果*

5年局所制御率: 88%
5年生存率: 59%

予測される主な有害事象*

照射部位に含まれる正常組織(皮膚、神経、骨、消化管など)に有害反応が出現する可能性があります

* 先行施設データ(Yamada M et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys, 2016; 96: 93-101)

 

子宮癌

対象

局所進行子宮頸癌

適応
  • 組織学的に腺癌または腺扁平上皮癌と診断されている
  • FIGO分類で臨床病期 II-IVA期(直腸浸潤症例は除く)である
  • 腹部CTで腹部傍大動脈領域に短径1cm以上のリンパ節腫大がない
  • 子宮頸癌に対し手術、放射線、化学療法の治療歴がない
重粒子線治療
  • 55.2Gy(RBE)/16回(週に4回、4週間の治療)
  • 重粒子線治療の後に小線源による腔内照射を3回追加
  • 原則としてCisplatinによる化学療法を併用
期待される治療効果*

CDDP併用症例において
2年局所制御率: 71%
2年生存率: 88%

予測される主な有害事象*

治療した部位に含まれる正常組織(消化管、膀胱、皮膚など)に有害反応が出現する可能性があります

* 先行施設データ(Okonogi N et al. Cancer Med, 2018; 7: 351-359)

 

婦人科癌

対象

婦人科領域悪性黒色腫

適応
  • 悪性黒色腫と診断されている(組織学的に診断されていることが望ましい)
  • 遠隔転移がない
  • 骨盤部の放射線の治療歴がない
重粒子線治療
  • 57.6Gy(RBE)〜64.0Gy(RBE)/16回
  • 腔内照射は行いません。
期待される治療効果*

2年全生存率 53%

予測される主な有害事象*

治療した部位に含まれる正常組織(消化管、膀胱、皮膚など)に有害反応が出現する可能性があります

* 先行施設データ(Murata H et al. Cancers, 2019; 11: 482)

 

転移性腫瘍

対象

転移性腫瘍(肺転移、肝転移、リンパ節転移)

適応
  • 3個以下の転移で1つの照射野に含めることができる
  • 原発巣が手術や放射線治療等を行い、残存や再発がない
  • その他に転移がない
  • 消化管への浸潤がない
重粒子線治療
  • 転移病変の局在により線量分割が異なります
  • 4回~16回(週に4回、1~4週間の治療)
  • 消化管に近い場合はスペーサーの挿入を検討することがあります
期待される治療効果*

転移性肺腫瘍:2年局所制御率 95%、2年生存率 78%
転移性肝腫瘍:2年局所制御率 83%、2年生存率 57%
リンパ節転移:2年局所制御率 76%、2年生存率 67%

予測される主な有害事象*

治療した部位に含まれる正常組織に有害反応が出現する可能性があります

* 多施設共同観察研究(J-CROS, 2019)データ