各学部の研究活動
がん治療学部

研究スタッフ

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先端的がん医療開発支援ユニット
ユニット長 医長 廣島 幸彦
内線番号 (PHS5201)
Eメール yhiroshiy[at]gancen.asahi.yokohama.jp
主任研究員 大津 敬
内線番号 4033(PHS5689)
Eメール tag[at]gancen.asahi.yokohama.jp
主任研究員 菊地 慶司
内線番号 4040
Eメール kei[at]gancen.asahi.yokohama.jp
副技幹 吉原 光代

研究テーマ

  • 新たながん治療薬の開発(大津

研究活動の概要(大津)

 新規の分子標的医薬品候補物質として、がんに関連した細胞外因子に対するRNAアプタマーを作製しています。アプタマーは試験管内人工進化法によって得られる標的物質特異的に結合する核酸分子で、抗体に比べ副作用が少ないという特徴があります。

(1)in vitro - in silico 解析によるアプタマーの作製
 近年の研究からタンパク質のアミノ酸配列情報をコードしない非コードRNA(ncRNA)がゲノムからの転写産物の90%以上に達することが示されるとともに、遺伝子の転写、翻訳の時間的、空間的な制御に必須な機能性RNAが多数存在していることが確認されている。また、幹細胞に必須なタンパク質複合体がncRNAの作る骨格により維持されていることが明らかになるなど、新たな知見が次々と報告されている。この様な状況から、機能性RNAは化学・製薬産業分野に応用可能な分子として注目が高まっている。ランダムなRNAプールからある標的物質と高い親和性を持つRNA分子(RNAアプタマー)を濃縮する試験管内人工進化法-Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX)-を用いることにより、標的物質の機能を促進/阻害するRNA分子の取得が可能である。アプタマーは安価に大量合成が可能で副作用も少なく、修飾塩基の導入により安定化することから、医薬品や検査診断薬へ向けた研究開発が国内外で行われている。しかし、作製方法の難度が比較的高く実験者による結果のばらつきが大きいことから、抗体など、他の分子標的医薬品候補物質に開発で遅れを取っている。我々はNECソフト㈱との共同研究で「多様性を保持した再現性の高いin vitro selection法」を行い、次世代シーケンサーにより得られた大量配列を統計解析 – in silico 解析- することで効率よくアプタマーを取得する方法を開発した。
 SELEX法は図1のような一連の工程を1ラウンドとして、10〜15ラウンド程度を行い標的物質に特異的に結合するアプタマーを取得する方法である。通常はこの十数ラウンドの工程を1回の試行とし、取得までに条件を変えながらを4〜5回を繰り返す。一工程は1014種類以上のRNA分子プールと標的物質を会合させ、結合していない分子を洗浄して特異的に結合するRNA分子の存在比率を高め、これを回収後に増幅して再度RNAプールを作製することで終了する。

図1.1工程の各段階におけるRNA量の変化モデル

 この1工程の各段階におけるRNA量の変化モデル(図1棒グラフ:縦軸対数)を示す。スタートのRNA量を1とすると標的物質との結合、洗浄(ポジティブセレクション)でその量を1,000,000分の1程度に絞り込み、RNAからDNA への逆転写反応、テンプレートに含まれる固定配列(P1、P2)を使用したPCR反応、PCR産物をテンプレートとしたRNA転写反応によりスタート時とほぼ同じ量のRNA(1,000,000倍程度)にまで増幅する。この一工程でRNAプール中の高親和性RNAは100倍から1000倍程度に増幅されることが期待される。
 我々は、SELEX法においてRNAプールに「標的物質と結合する」という正の選択圧に対して、取得の難易度を高くしている負の選択圧には大きく分けて2つあるとの仮説を立てた。1つは結合・洗浄時のセレクションにおける分子種存在比率のドリフト、もう一つはセレクション後に分子数を増幅するときに掛かるバイアスである。前者は、強いセレクションを行うと操作上避けられないロスの影響が大きくなることで、標的物質への結合の高い分子も取り零してしまう現象である(図2)。後者は、増幅操作の過程で結合能とは無関係に増幅されやすい分子種の存在比率が高くなることで高親和性分子の比率が低下する現象である(図3)。

図2

 これらに基づき、1)操作上避けられないロス、2)増幅時のバイアスの2点を減らす方法を考案し、アプタマー取得を試みた。これまでに2種類の血中因子を標的とした in vitro selection を行い、従来の方法(10〜20種類/100分子)より高親和性RNAの配列が多様性を保持している(40〜50種類/100分子)プールを取得できた。
 「多様性を保持したアプタマープール」は、統計学的な解析(in silico解析)に適したデータグループであることから、我々の取得したプールから次世代シーケンサーにより得られた数万以上の配列情報をNECソフト㈱が解析することで、アプタマーの取得効率を高める研究を進めている。

(2)HMGB1に結合するアプタマーの作製
 High Mobility Group Box 1 (HMGB1)は生存に必須であり、細胞核内ではクロマチン構造を形成するタンパク質として遺伝子転写時に機能する。一方、細胞外に放出または分泌されたHMGB1は細胞表面の受容体に結合し、炎症反応や細胞の形態変化、移動を促進するサイトカインとして機能する。近年、後者の機能解析が進み、自己免疫疾患や敗血症、外傷性ショック、虚血や虚血再灌流障害がおこる際に炎症反応を悪化させ、細胞死を誘導することが明らかとなり、HMGB1がこれら疾患の診断マーカー、治療の標的となり得ることが示されている。また、がんに関しても、乳がん、大腸がん、メラノーマ、前立腺がん、膵臓がんおよび肺がん等の増殖や浸潤転移にHMGB1が関与する可能性が報告されている。このような背景から、我々は診断薬、治療薬を目標として、HMGB1に結合するアプタマーを作製し、医薬品候補物質とするための研究を行っている。
 HMGB1を標的としてin vitro selection を行い、RNAプールの結合能が十分上昇するまでselectionを8回繰り返した。最終的に得られたRNAプールから24種類、62クローンの塩基配列を決定し各々の結合力を測定したところ、5種類、17クローンで強い結合(1pM < Kd <1nM)が見られた。次世代シークエンサーにより同一のプールから16,392の配列情報を得てin silico解析を行い、複数のアプタマー候補配列を得た。これらの結合力を測定したところ、従来法では取りこぼしていた極めて高い親和性を持つアプタマー(Kd <1pM)を取得することができた。最も強く結合するアプタマーを小型化するために二次構造を予測した。得られた43,864通りの構造候補の in silico 解析により結合に関与しないと判断された塩基を欠損した変異体を作製し、80merのアプタマーから39merへと結合力を維持した状態での小型化に成功した。現在、これらアプタマーの生理活性の評価を行っている。

(3)c-Metに結合するアプタマーの作製
 c-Metは細胞表面に存在する受容体で、hepatocyte growth factor(HGF)が結合することで細胞増殖や分化、アポトーシスの抑制などを引き起こす。また、肺がん、消化器系がんなど様々ながんで発現亢進が報告されている。ある肺がん細胞株ではHGF刺激による細胞増殖や移動能の上昇が確認されていることから、がん細胞の増殖や転移、浸潤への関与が指摘されていて、がん治療の標的物質として注目されている。我々は、HMGB1と同様に、c-Metに結合するアプタマーを作製し、医薬品候補物質とするための研究を行っている。
 タグを含むリコンビナントc-Metに対してin vitro selectionを8ラウンド行った結果、結合能が上昇したRNA プールを得た。このRNA プールは同じタグを持つ他のリコンビナントタンパク質には結合しないため、c-Met分子に結合していると考えられた。このプールから96分子の塩基配列を決定し比較したところ、8種類のクラスターに分類され、全ての配列で特異的な結合が確認された。このプールを次世代シーケンサーで配列解析すると、HMGB1に対するアプタマーと同様に、プラスミドクローニングでは取りこぼしていた強力に結合するアプタマーを多数確認した。修飾塩基導入によりRNase耐性としたアプタマーは、HGF刺激による細胞移動を抑制することが明らかになった。現在、さらなる生理活性の評価と、その作用機序の解析を行っている。

がん治療学部の研究業績