各学部の研究活動
がん生物学部

スタッフ

部長 越川直彦(こしかわなおひこ)
1) 内線番号 4039
2) FAX番号 045-520-2216
3) Eメール nkoshi@ims.u-tokyo.ac.jp
4) 専門 腫瘍生化学、細胞生物学
主任研究員 菊地慶司(きくちけいじ)
1) 内線番号 4037
2) FAX番号 045-520-2216
3) Eメール kei@gancen.asahi.yokohama.jp
4) 専門 分子生物学、分子腫瘍学
主任研究員 星野大輔(ほしのだいすけ)
1) 内線番号 4037
2) FAX番号 045-520-2216
3) Eメール dhoshino@gancen.asahi.yokohama.jp
4) 専門 細胞生物学、分子腫瘍学
実験補助員 猪狩瑞穂(いがりみずほ)
研修生 清川博史(きよかわひろし)
聖マリアンナ医科大学
長野 真(ながのまこと)
東京理科大学基礎工学部・特任研究員
中川将利(なかがわまさとし)
アボットジャパン・客員研究員
事務 久保井恵美子(くぼいえみこ)

がん生物学部の紹介

 がん生物学部門は越川が平成26年4月に東京大学医科学研究所より赴任し、新たな研究部として始動しました。
 当研究部門では、分野にとらわれない多角的な解析手法により、がん細胞の悪性形質獲得の分子機序を正確に理解し、基礎研究からトランスレーショナル研究に発展させることで、これまでにない、新たながん治療法・診断法を開発することを目標としています。近年、外科手術、放射線療法、薬物療法の進歩により、がん患者の生存率は上昇傾向にあります。しかし、残念ながら、一部の難治がんは早期に転移を起こすため、5年相対生存率は30%に満たない状況であります。これら難治がんの治療成績を向上させるためには、まず、転移を制する(理解する)必要があります。そこで当研究部門では、世界最先端の技術を用いて、がんの悪性形質獲得の分子メカニズムの解明に取り組んでいます。部長の越川は東京大学医科学研究所時代から一貫して、膜型マトリックス・メタロプロテアーゼ(MT1-MMP)に注目した研究を展開しております。MT1-MMPは悪性がん細胞に高頻度に発現し、がん細胞周辺のコラーゲンをはじめとする正常組織の構造を破壊することで、がん細胞の浸潤・転移を促進します。これまでに私たちは、1)MT1-MMPはがん細胞の膜上において、がん細胞の悪性形質獲得に重要な働きをする細胞増殖因子やその受容体と複合体を形成すること、2)その複合体蛋白質を基質として部分切断(プロセシング)することで、これらによるがん悪性化を亢進することを見いだしております。以上の結果は、MT1-MMPとその複合体分子が悪性がんを治療するための新たな標的分子となりうること、さらに、悪性がんを早期診断するためのバイオマーカーとなりうることを強く示唆しております。現在、これらの知見をもとにしたトランスレーショナル研究に力を入れており、新たな抗癌作用機序をもつがん分子標的薬、および、難治性がんの早期診断を可能とするバイオマーカーとして国内外の製薬、診断薬企業と共同開発しております。今後、前臨床試験、臨床試験を行い、ここ神奈川からがんの独創的な治療法・診断法を世界に向けて発信することを目指します。

がん生物学部スタッフ
がん生物学部スタッフ

がん生物学部門

研究課題

  1. 越川チーム
    膜型マトリックス・メタロプロテアーゼ1(MT1-MMP)はproMMP2の活性化因子として、また、自らが膜型のコラーゲナーゼとしてコラーゲンやラミニンなどの細胞外マトリックス(ECM)を分解することで、がん浸潤・転移、組織再生、創傷治癒、血管新生などの生理的、病理的に重要な現象に関与することが知られています。
最近の研究から、ECM基質に加えて膜分子がMT1-MMPの基質となりうること、また、MT1-MMPは膜分子プロセシングを介してその機能調節に重要な役割を果たすことが明らかとなりつつあります。そのため、膜上でのMT1-MMP複合体の全容を明らかにすることは、未だに解明されていないMT1-MMPの細胞機能制御の役割を見出すことが可能とします。しかし、これまでに細胞膜上でのMT1-MMP複合体についての系統的な研究は殆ど行われていません。そこで、私たちは癌細胞の膜上でMT1-MMPがどの様な膜分子と複合体を形成しているかを明らかとするため、複合体分子群の網羅的な同定をプロテオミクスの手法を用いて行いました。その結果、MT1-MMPは既知の膜分子を含む50以上の膜分子と結合していることが明らかとなり、それらのうち50%の膜分子はMT1-MMPの新規基質分子でありました。
現在、MT1-MMPによるこれら新規基質分子のプロセシングが細胞に及ぼす影響についての詳細を調べています。これまでに、これら基質分子のプロセシングを介してMT1-MMPが、細胞増殖、生死、接着、運動、造腫瘍能を制御すること見出しており、本知見は、MT1-MMPは細胞膜上で複合体分子と共益して様々な細胞機能の制御に関与していることを示唆しています。現在、新たなMT1-MMPの基質分子になりうる可能性をもつ幾つかの分子群について詳細な解析を行い、がんの悪性化への役割を明確にすることを行っています。現在、これら研究成果をもとにして、MT1-MMPやその複合体関連分子をがんの治療。診断の標的としたトランスレーショナル研究を国内外の製・診断薬企業と協力して行っております。
  2. 菊地チーム
    がんの発生・進展にはがん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異(DNA塩基配列の変化)に加えて、それらの発現を制御する染色体構造の変化(DNAのメチル化修飾やヒストンの修飾など、DNA塩基配列の変化は伴わないが細胞分裂を通して保存される「エピジェネティック」な変化)が関与していることが明らかになりつつあります。
    SIRT1はエピジェネティックな遺伝子の発現調節に関わるヒストン脱アセチル化酵素(ヒストン蛋白のアセチル化修飾を取り除く蛋白質)として同定され、酵母や線虫からマウスにいたる個体で栄養制限下での寿命の延長に関わることが示されて注目を集めています。加えてSIRT1はがん抑制蛋白質p53を含むさまざまな蛋白を脱アセチル化し、がんの発生・進展にも深く関与しているものと考えられています。SIRT1を標的とする薬剤の開発が進んでいる一方で、SIRT1のがんへの関与が促進的であるのか抑制的であるのかについてはがんの種類によって異なることなどが報告されており、がんにおいてSIRT1がどのような状況でどう機能するのかを明らかにすることが生物学的にも薬剤の臨床応用の面でも重要な課題となっています。
    わたしたちはこれまでに大腸がん、胃がん、頭頚部がんでのSIRT1の発現を調べ、がんの病理学的な特性や患者さんの予後との関係を調べてきました。頭頸部がんにおいてはSIRT1の低発現はがんの低分化やリンパ節への転移、そして患者さんの予後不良と有意に相関していました。現在わたしたちは現在頭頸部がんではSIRT1が分化度の低いがん細胞あるいはがん幹細胞から分化度の高いがん細胞を誘導するのではないかという仮説を立てて検討を進めています。
  3. 星野チーム
    がんの浸潤過程は、(1)がん細胞と細胞外基質(ECM)の接着、(2)ECMの分解、(3)がん細胞の移動に分類できます。がん細胞はインテグリン等の接着分子を介した接着能を亢進させ、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などのECM分解酵素の発現と活性化により基底膜・間質組織への浸潤能を獲得します。一方、細胞内では細胞運動を亢進するアクチン細胞骨格の再編を促すシグナル伝達系が活性化されます。最近の研究から、ECM分解と細胞運動がどのように連動しているか、分子レベルでのメカニズムが明らかとなりつつあります。これらの現象を細胞生物学的手法(主にイメージング)と数理モデルを組み合わせて解明していきたいと思っています。
    がん細胞は浸潤する過程で物理的な障壁となるECMを無作為に破壊するわけではなく、移動に必要な最小限のスペースを確保できる程度に、効率的にECMを分解していると考えられています。そのためには、浸潤先端部にECM分解酵素を配置し、分解方向に細胞体を押し出す、精密な制御メカニズムが存在しており、Rho GTPaseによる細胞骨格の再編成とMMPによるECM分解が協調的に働いていることが明らかになりつつあります。高浸潤性のがん細胞をECM上で培養すると、アクチンがドット状に濃縮した構造体が形成されます。このドット状アクチン集積部位には、コルタクチンやN-WASP、Arp2/3複合体などのアクチン骨格の再編成に関与する分子やMT1-MMPが局在しています。このようなアクチンが集積した構造体を浸潤突起(invadopodia)と呼びます。浸潤突起を形成したがん細胞は、突起方向への高い運動性を示し、MT1-MMPによるECM分解により基底膜や間質組織を破壊し、浸潤します。類似の細胞膜構造として、破骨細胞などの正常細胞で観察されるポドソームがあります。
がん細胞は、浸潤突起を形成してECMを局所的に分解し、生まれたスペースに細胞体をもぐりこませるように移動することで効率的に浸潤・転移を起こすと考えられます。つまり、浸潤突起は単にECMを分解するだけではなく、細胞運動の先端面としての役割も持っている。そのため浸潤突起は、ECM分解と同時に、運動を促進する細胞骨格の再編成も制御していることが予想されます。

現在進行中のプロジェクト

  1. 浸潤突起局在性タンパク質のFRAP 解析データを数学的見地から理解する。
  2. 浸潤突起でのSmall GTPase 活性を複数のFRETデータを組み合わせ、数理モデルと組み合わせることで時空間的に理解する。
  3. 世界で初めて確立した、詳細な浸潤突起形成観察方法を用いて、浸潤突起形成を網羅的(多角的)に観察し、数理モデルを確立する。
  4. 二光子顕微鏡を用いた in vivo imaging(がんの転移過程)
  5. pre-metastic niche とエクソソームの関係

がん生物学部の研究業績

各学部の研究活動