がん生物学部

がん生物学部について

 がん生物学部では、臨床各科や横浜市大病院と複数の共同研究を遂行しています。
 その内の一つが、これまでに有効な治療法が確立されていない難治、希少がんのプレシジョンメディシン実現に向けた、オルガノイドライブラリーの構築とそれを用いた短期間での治療効果予測系の確立、新規治療法開発です。また、臨床における疑問点などを基礎研究で解明することで、実臨床に役立てるリバーストランスレーショナルリサーチを行っています。
 これらに加えて、がんを生物学的に研究することも並行して行なっています。がん悪性化機構解明のためのツール作りや、生物学的特徴を他分野の言語を用いて表現することで、新たな基軸が提示されはじめています。

研究課題

◎難治・希少がん患者由来オルガノイドライブラリーの構築

 新規治療薬や診断薬は基礎研究の成果ですが、新薬開発の成功率は著しく低いのが現状です。その原因は多種多様ですが、基礎研究で使用している培養細胞株が原因の一つであることが指摘されています。例えば、いくつかの培養細胞株は、臓器の由来が異なること、生体内の性質を遺伝子変異レベルやタンパク質レベルで保持していないことが明らかになっています。特に、分化癌培養細胞株は、分化度が維持されていないことが報告されています。これらの問題点を解決する手法として、我々はオルガノイド培養法の開発と最適化を行い、患者由来オルガノイドライブラリーの構築を行なっています。これまでに、様々な臓器由来オルガノイドの樹立に成功しています。将来的には、臨床情報、凍結組織と合わせた Living Biobank の構築を目指しています。

◎甲状腺未分化がんの新規治療標的の同定

 甲状腺がんは、予後良好な分化がんから、予後不良な未分化がんに転化します。未分化癌は生存期間の中央値は 5.1 か月〜 9.4 か月、1年生存率は 520% と極めて予後は不良ですが、有効な治療法はありません。これまでにがん生物学部では、甲状腺グループ(がんセンター、横浜市大病院など)と複数の共同研究を展開しており、そのうちの一つが、同一患者の分化癌と未分化癌(再発後未分化癌)の遺伝子解析です。詳細な遺伝子解析の結果を基に、オルガノイド培養系を用いて検証し、新規治療標的の同定と未分化転化の分子機構解明を目指しています。

◎リバーストランスレーショナルリサーチ

 ある抗がん剤では、非常に高い奏功率を示す一方で、薬剤誘発性間質肺炎のため治療を中断せざるを得ないケースが生じています。そこで、我々はSNP に注目して、薬剤誘発性間質肺炎を起こすバイオマーカー探索をしています。その他、臨床の疑問点を基礎研究に落とし込んで解決することを目指しています。

◎がんの生物学的基礎研究

 がん生物学部では、これまでにがん細胞が浸潤・転移する際の形態(浸潤突起、フィロポディア)や、そこに局在するプロテアーゼ、分泌される細胞外小胞について研究を行ってきました (Hoshino et al, Sicnece Signaling 2012, Hoshino et al, Cell Reports 2013, Sung et al Nature Commun. 2015, Shinha et al JCB 2016)。これらの研究データを基に物理学者、数学者と共同研究することで、別の角度からがん悪性化の特徴を見出しました(Hoshino et al, PLoS Comput. Biol. 2012, Saitou et al, Theoretical Bio Med Model 2012, Watanabe et al, PLoS Comput. Biol 2013)。これらの一連の研究では、がん細胞のみを対象としており、複雑な生体内を再現するには至りませんでした。このことから、現在では、がんと間質細胞の相互作用(物理的、または、間接的)や、細胞外マトリックスを考慮したアプローチから、がんの生物学的特徴の解明を目指しています。

◎研究論文

2023年

  1. Kouro T, Higashijima N, Horaguchi S, Mano Y, Kasajima R, Xiang H, Fujimoto Y, Kishi H, Hamana H, Hoshino D, Himuro H, Matsuura R, Tsuji S, Imai K and Sasada T. Novel chimeric antigen receptor-expressing T cells targeting the malignant mesothelioma-specific antigen sialylated HEG1 Int J Cancer, 1/2024

2022年

  1. Sekihara K, Himuro H, Saito N, Ota Y, Kouro T, Kusano Y, Minohara S, Hirayama R, Katoh H, Sasada T and Hoshino D. Evaluation of X-ray and carbon-ion beam irradiation with chemotherapy for the treatment of cervical adenocarcinoma cells in 2D and 3D cultures. Cancer Cell Int. 2022. 22(1):391-406
  2. Nakayama H, Saito N, Kasajima R, Suganuma N, Rino Y, Masudo K, Yamazaki H, Toda S, Sekihara K, Iwasaki H and Hoshino D. Validation of EZH2 Inhibitor Efficiency in Anaplastic Thyroid Carcinoma Cell Lines. Anticancer Res. 2023. 43(3) :1073-1077

過年度

2021年

  1. Toda S, Sato S, Saito S, Sekihara K, Matsui A, Murayama D, Nakayama H, Suganuma N, Okubo Y, Hayashi H, Iwasaki H, Miyagi Y and Hoshino D. TROP-2,Nectin-4,GPNMB, and B7-H3 are potentially therapeutic targets for anaplastic thyroid carcinoma. Cancers, 2022 in press
  2. Daisuke H, Kato H, Fukumura K, Mayeda A, Miyagi Y, Seiki M and Koshikawa N. Novel LAMC2 fusion protein has tumor-promoting properties in ovarian carcinoma. Cancer Science 2021. 112(12):4957-4967
  3. Sato S, Maki S, Yamanaka T, Hoshino D, Ota Y, Yoshioka E, Kawachi K, Washimi K, Suzuki M, Ohkubo Y, Yokose T, Yamashita T, Ohtori S and Miyagi Y. Machine learning-based image analysis for accelerating the diagnosis of complicated preneoplastic and neoplastic ductal lesions in breast biopsy tissues. Breast Cancer Res Treat. 2021. 188(3) :649-659

2020年

  1. Nagano M, Hoshino D, et al. (*equally contributed) NH2-terminal fragment of ZF21 protein suppresses tumor invasion via inhibiting the interaction of ZF21 with FAK. Cancer Science. 111(12):4393-4404 2020.
  2. Yoshida T,.., Hoshino D. Membrane type 1 matrix metalloproteinase regulates anaplastic thyroid carcinoma cell growth and invasion into the collagen matrix. Biochem Biophys Res Commun. 529(4):1195-1200, 2020.
  3. Kikuchi and Hoshino D. Sensitization of HT29 colorectal cancer cells to vemrafenib in three-dimensional collagen cultures. Cell Biol Int. 44(2):621-629, 2020. IF 2.571

スタッフ紹介

 

※メールアドレスの[at]は@に直してご送信ください。

  • 星野 大輔 ほしの だいすけ

    役職 部門長
    Eメール hoshino.2390e[at]kanagawa-pho.jp
    専門 腫瘍生物学、オルガノイド生物学
  • 関原 和正せきはら かずまさ

    役職 任期付研究員
    Eメール sekihara.6e20l[at]kanagawa-pho.jp
    専門 放射線生物学、細胞生物学
  • 齋藤 菜緒さいとう なお

    役職 任期付研究員
    Eメール saito.6d10l[at]kanagawa-pho.jp
    専門 細胞生物学、分子生物学
  • 猪狩 瑞穂いがり みずほ

    役職 研究補助員
    Eメール igari.17025[at]kanagawa-pho.jp
  • 柴田 竜子しばた りゅうこ

    役職 研究補助員
    Eメール shibata.5s70j[at]kanagawa-pho.jp
  • 茅野 新かやの はじめ

    役職 客員研究員 (東海大学消化器外科)
  • 戸田 宗治とだ そうじ

    役職 客員研究員 (横浜市立大学附属市民総合医療センター)
  • 間室 奈々まむろ なな

    役職 研究生 (東海大学消化器外科)
  • 安川 美緒やすかわ みお

    役職 研究生 (横浜市立大学外科治療学)
    専門 乳腺

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