各学部の研究活動
がん免疫療法研究開発学部

スタッフ

部長 笹田 哲朗(ささだ てつろう)
※ 11月17日着任:着任のあいさつ
内線番号 4036(PHS 5063)
Eメール tsasada@kcch.jp
専門 腫瘍免疫学、消化器外科学
副部長 和田 聡(わだ さとし)
内線番号 5193
研究員 矢田英理香(やだ えりか)
内線番号 4033
任期付研究員 大竹淳矢(おおたけじゅんや)
内線番号 4033
研究補助員 藤本佑希(ふじもと ゆうき)
内線番号 4033
実験補助員 吉田慎太郎(よしだ しんたろう)
内線番号 4033
実験補助員 内山秀美(うちやま ひでみ)
内線番号 4033

がん免疫療法研究開発学部の紹介

 がん免疫療法は外科療法、化学療法、放射線療法に次ぐ、新世代がん治療法として注目を浴びてきました。特に、最近では抗CTLA-4抗体、抗PD1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤やキメラ抗原受容体chimeric antigen receptor(CAR)遺伝子改変T細胞療法など、がん免疫療法の臨床効果を科学的に実証する報告も相次いでいます。ただし、その治療効果はがん種や患者によって限定的であり、残念ながら第4のがん治療法として公認されるには至っていません。我々は、がん免疫療法が広く公認されるように、科学的・医学的根拠に基づいた新しい診断・治療法の開発を目指して、以下のような研究をしています。

研究課題

  1. 変異遺伝子(neoantigen)を標的とした個別化がん免疫療法の開発
     1990年代にT細胞が認識するがん関連抗原を分子レベルで同定できるようになり、それらを標的とした特異的がん免疫療法の臨床応用が盛んに試みられてきました。しかしながら、これまでに実施されてきた特異的がん免疫療法の臨床効果は必ずしも良好とはいえず、その原因として標的とするがん抗原の"免疫原性の低さ"が指摘されています。特に、これまでの臨床試験のほとんどが遺伝子変異のない野生型の自己抗原を標的としているため、high avidityな抗原特異的T細胞がすでに体内から消失(胸腺での負の選択・免疫寛容)しており、高い免疫反応が得られないと推測されています。そこで、我々は特異的がん免疫療法の標的として遺伝子変異由来の抗原(neoantigen)に注目しています。遺伝子変異由来の抗原(neoantigen)は、免疫系からは"非自己"として認識されるためにhigh avidityな抗原特異的T細胞が効率よく誘導されるうえに、がん悪性化に関与する突然変異遺伝子(Driver mutation)を標的とすればがん細胞での抗原喪失による免疫監視機構からの逃避も起こりにくい、と期待されます。
     これまで我々はいくつかのがん悪性化に関与する変異遺伝子(Driver mutation)に由来するT細胞抗原エピトープの同定を試みてきました。たとえば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(イレッサやタルセバ)治療後に耐性になった非小細胞肺がん患者の約半数に認められるEGFR T790M点突然変異のアミノ酸配列に由来するHLA-A2拘束性抗原エピトープを同定し報告しました(Yamada T, et al, PLOS ONE, 2013)が、このエピトープは現在有効な治療法のないT790M陽性の肺がん患者に新しい治療法を提供できるものと期待され、早期臨床試験を計画中です。
     最近の医生物学の発展、特に次世代シーケンサー(NGS)の急速な進歩に伴いがん細胞の全ゲノム解析も比較的容易となり、細胞がん化に関連する遺伝子変化も各個人のレベルで解析することが可能となっています。それに伴い突然変異遺伝子の機能を制御する分子標的治療薬を用いた個別化治療が臨床医学分野では一般化されつつありますが、変異遺伝子を標的とした特異的がん免疫療法に関しては十分には検討されていません。本研究プロジェクトではがん細胞の突然変異遺伝子に対する免疫応答を詳細に、網羅的に解析することにより、個別化がん免疫療法への臨床応用を目指しています。

    変異遺伝子を標的とした癌免疫療法のコンセプト

  2. 末梢血を用いた低侵襲ながん検査法"Liquid Biopsy"の開発
     手術適応のない進行・再発がん患者においては患者由来のがん組織を得ることは難しい。そうした患者における診断、治療方針決定に応用するために、我々は末梢血中の循環腫瘍細胞(circulating tumor cell)や核酸(DNA、micro RNA)を解析する "Liquid Biopsy"の研究をしています。
     特に、我々はがん細胞の免疫学的情報を得るための新しい"Liquid Biopsy"として、血漿中のヒト白血球抗原(HLA)分子に結合するペプチド(ペプチドーム)を解析・同定する方法を開発しています。可溶性HLA分子は各種がん患者の末梢血中に増加すると報告されていますが、その臨床的意義は明らかにされていません。本研究プロジェクトでは、がん患者末梢血中の可溶性HLAに結合するペプチドの臨床的意義、特に、少量の末梢血を用いた可溶性HLA結合ペプチドームの解析により、がん細胞表面に実際に発現・提示されるがん抗原ペプチドを推測・同定できることを科学的に検証し、個別化診断、治療のために臨床応用することを目指しています。

    抹消血を用いた新規免疫学的診断法の開発

  3. がん免疫療法の新規バイオマーカー同定(久留米大学がんワクチンセンターとの共同研究)
     現在まで国内外の多くの研究グループによりがん免疫療法の臨床試験が試みられてきましたが、その治療効果はがん種や患者によって限定的です。今後、がん免疫療法の臨床成績を高めるためには、治療効果の期待できる患者を選別する、あるいは、治療効果を妨げる要因を特定しその要因を除去する、などの工夫が望まれます。そのために、我々はがん免疫療法で治療されたがん患者のサンプル(がん組織、末梢血など)を用いて、新規バイオマーカーの同定を試みています。
     たとえば、これまでの検討では末梢血中の免疫抑制細胞(MDSC)や炎症性サイトカイン(IL-6)の増加ががん免疫療法の治療効果を妨げる一因である可能性が判明しています(Komatsu N, et al, Cancer, 2012; Kibe S, et al, Cancer Immunol Res, 2014)が、こうした研究成果をもとにIL-6の生物活性を抑えるために抗IL-6受容体抗体(アクテムラ)とがんワクチンとを併用する臨床試験なども試みています(久留米大学において第1相試験を実施中)。今後も、新規バイオマーカーを同定することにより、がん免疫療法の治療効果のさらなる向上を目指しています。

    新規バイオマーカー同定と治療戦略の構築

  4. がん微小環境における新規抗原提示システムの開発
     米国では、2010年に抗原提示細胞を利用したがん免疫治療(sipuleucel-T, 商品名: Provenge®)が世界で初めて医薬品として承認されました。現在、抗原提示細胞を用いた最先端のトランスレーショナル研究が世界中で盛んに試みられていますが、さらに治療効果を高めるためにはがん細胞や抗原提示細胞(樹状細胞等)ががん抗原を効率的に提示するメカニズムを解明することが極めて重要と考えられます。特に、がん患者ではがん細胞や樹状細胞でのがん抗原提示能が高頻度に低下していると報告(Ferrone, 2007)されているために、これらの細胞での抗原提示能の回復・効率化はがん免疫療法の治療効果を高めるための最重要課題の一つと考えられています。
     がん組織に多い低栄養/低酸素状態では自己消化(Autophagy)が起こることが知られています。本研究では、がん細胞や抗原提示細胞におけるAutophagyと抗原提示との関連を詳細に解析することにより、効率的にがん抗原を発現させ、効果的に抗腫瘍免疫応答を誘導する方法を開発します。2005年にBlumやMunzらのグループが、Autophagyを介したHLA class II分子による抗原提示とヘルパーT細胞活性化についてはじめて報告しましたが、その後も正常細胞におけるAutophagyと抗原提示との関連については研究が進められ、現在ではHLA class IIのみならずclass Iを介したCTLの活性化にもAutophagyが関与すると考えられています(Munz, 2010)。一方、がん細胞においてはAutophagyを介したHLA class Ⅰ抗原提示ががん微小環境に応じて増強又は低下するという報告(Li, 2010)もありますが、十分に研究されているとは言えません。我々は、がん微小環境でのAutophagyを介した抗原提示のメカニズムを詳細に解明し、その成果を新規がん免疫療法として臨床応用することを目指しています。特に、我々はがんの臨床サンプルにおいて抗原提示システムを効率的に解析できる抗体(下記参照)を用いて、独自性の高い研究を展開したいと考えています。

    抗原提示システムを効率的に解析できる抗体

  5. 新規がん抗原の同定及び効果的なAdjuvantの探索
     1991年にBoon Tらによって悪性黒色腫のがん抗原が発見されて以来、新たながん治療法としてがん抗原特異的免疫療法の研究が進み、世界各国で臨床試験が行われています。特に、日本では人種の多様性が低くHLA型が比較的均一であるため、HLA拘束性エピトープペプチドを用いたがんワクチンが期待されています。我々もがんペプチドワクチン療法として用いるために多数のエピトープペプチドを同定 (Wada S, 2005; Uchida N, 2004; Ishizaki H, 2006)してきましたが、そのいくつかは臨床試験として使用され、効果検証が行われています。これまでの臨床研究においてがんペプチドワクチン療法が腫瘍特異的なT細胞を体内で活性化させること、また、一部の患者では臨床効果を認めること、などが報告されていますが、まだ十分な治療成績とは言えません。我々は、その原因の一つとして標的とする抗原やAdjuvantに問題があると考え、新規がん抗原の同定や、ペプチドの特性を生かすために効果的なAdjuvantの探索などを試みています。

  6. Immune Checkpointsを標的とした新規免疫療法の開発
     がん免疫療法の臨床試験で満足な成績が得られない原因の一つとして宿主における免疫抑制及び腫瘍による免疫逃避の存在(誘導)が指摘されており、免疫逃避/抑制機構の制御ががん免疫研究の最近のトピックとなっています。 特に最近では、宿主における制御性T細胞のコントロールと共に、がん細胞によるnegative co-signaling moleculesのコントロールが注目されています。2011年3月に米国で二つ目の免疫治療薬として、悪性黒色腫に対するipilimumab(イピリムマブ,商品名:Yerboy®)が承認されました。これはT細胞が活性化した際にT細胞応答に抑制(ブレーキ)をかけるCTLA-4(Cytotoxic T-Lymphocyte Antigen 4)という分子の働きを抑える新規治療法です。また、他のImmune CheckpointsであるPD-L1、PD1に対するヒト化抗体も開発され臨床応用が進んでいます。特に最近抗PD1抗体が日本・米国で新規治療薬として承認されたこともあり、この領域は世界中で注目を浴びています。本研究では、消化器がん組織中での既知及び新規Immune Checkpointsの発現プロファイルを解析し、さらにがん微小環境における抗腫瘍免疫細胞との相互作用を解析することにより、各々のImmune Checkpointsの発現・機能を解明し、効果的な新規がん免疫治療への応用を目指します。
     我々はPD1とLAG3の発現パターンがリンパ球の活性化時期により異なること、またdouble positive, single positive等それぞれのcell populationにより機能が異なること、などを報告してきました。このように、Immune Checkpointsの発現パターンは全て同じではなく個々の病態によって変わるものと示唆されるため、これらを解析することにより消化器がんに特徴的な予後規定因子を同定できるのではないかと考えています。最終的には、同定した予後規定因子をもとに病態に応じて免疫チェックポイント阻害剤を使用する臨床試験へと応用したいと考えています。



  7. がん肝転移モデルを用いたがんワクチン投与後の免疫抑制機構の解明
     わが国で増加傾向にある大腸がんは約1/3に肝転移を合併するとされ、肝転移の制御が大腸がん治療戦略上の大きな課題の一つとなっています。外科的肝切除術が長期生存を望める唯一の治療法であり、本邦における肝転移切除後の5年生存率は40~50%といわれています。一方、胃がん、食道がん、膵がんなど他のほとんどのがん種では転移があると予後不良であることから、大腸がんの肝転移は転移がんの中でも特殊であると言えます。本研究では各々のがんの転移部と非転移部とに着目し、そのmicroenvironmentにおける免疫学的解析をがん患者の病理標本を用いて網羅的に行います。また、マウスでの各種がんの肝転移モデルを用いて肝転移の機序を解析(下図参照)し、新しい免疫治療の開発に役立てたいと考えています。



  8. NK細胞のがんワクチン治療における役割
     NK細胞(natural killer cell)はT細胞、B細胞に次ぐ第3のリンパ球として発見され、自然免疫と獲得免疫のかけ橋となる細胞として知られています。細胞傷害活性をもつのが特徴であり、前感作なしに機能を発揮します。生体内ではウイルス感染細胞を排除する他にも、がん細胞の排除に働くことが知られています。NK細胞上には細胞を活性化する受容体と、活性を阻害する受容体の2種類が存在し、それらを介するシグナルのバランスにより標的細胞への作用が変化します。活性化受容体のひとつであるNKG2D受容体は、全てのNK細胞で発現するとともに一部のCD8+T細胞、T細胞でも発現を認め、がん細胞に発現するMICA/MICBをリガンドとして認識して細胞傷害活性に関与します。がんの発生時期及びがんワクチン投与過程におけるNKG2D発現を解析することにより、獲得免疫治療における自然免疫の役割を評価し、その成果をがん免疫治療へ応用したいと考えています。

    NK細胞による標的細胞認識

  9. 放射線(重粒子線)治療とがん免疫療法との併用に関する検討
     放射線治療によりapoptosisを誘導された腫瘍細胞が抗原提示細胞にcaptureされることにより、細胞性免疫反応が誘導され抗腫瘍効果が得られることが証明されています。我々は、GM-CSF産生腫瘍ワクチン(GVAX)と放射線治療との併用、特に放射線の照射量・タイミングなどを調節することにより強い相乗効果が得られることを証明してきました(Wada S, 2013)。また、腫瘍の所属リンパ節における免疫の監視機構が破綻した際には、その所属リンパ節に対する放射線照射により強い抗腫瘍免疫反応を誘導できることなども明らかにしてきました。本研究では、平成27年度に当院で治療開始予定の重粒子線とがん免疫療法との併用の可能性について検討する予定です。

 

各学部の研究活動