各学部の研究活動
がん治療学部

研究スタッフ

主任研究員 大津 敬
主任研究員 辻 祥太郎
副技幹 吉原 光代
特別研究員 室井 敦
専門員 鈴木 勝雄

研究テーマ

  • 新たながん治療薬の開発(大津山田
  • 新たな診断薬の開発(

研究活動の概要(大津)

 新規の分子標的医薬品候補物質として、がんに関連した細胞外因子に対するRNAアプタマーを作製しています。アプタマーは試験管内人工進化法によって得られる標的物質特異的に結合する核酸分子で、抗体に比べ副作用が少ないという特徴があります。

(1)in vitro - in silico 解析によるアプタマーの作製
 近年の研究からタンパク質のアミノ酸配列情報をコードしない非コードRNA(ncRNA)がゲノムからの転写産物の90%以上に達することが示されるとともに、遺伝子の転写、翻訳の時間的、空間的な制御に必須な機能性RNAが多数存在していることが確認されている。また、幹細胞に必須なタンパク質複合体がncRNAの作る骨格により維持されていることが明らかになるなど、新たな知見が次々と報告されている。この様な状況から、機能性RNAは化学・製薬産業分野に応用可能な分子として注目が高まっている。ランダムなRNAプールからある標的物質と高い親和性を持つRNA分子(RNAアプタマー)を濃縮する試験管内人工進化法-Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX)-を用いることにより、標的物質の機能を促進/阻害するRNA分子の取得が可能である。アプタマーは安価に大量合成が可能で副作用も少なく、修飾塩基の導入により安定化することから、医薬品や検査診断薬へ向けた研究開発が国内外で行われている。しかし、作製方法の難度が比較的高く実験者による結果のばらつきが大きいことから、抗体など、他の分子標的医薬品候補物質に開発で遅れを取っている。我々はNECソフト㈱との共同研究で「多様性を保持した再現性の高いin vitro selection法」を行い、次世代シーケンサーにより得られた大量配列を統計解析 – in silico 解析- することで効率よくアプタマーを取得する方法を開発した。
 SELEX法は図1のような一連の工程を1ラウンドとして、10〜15ラウンド程度を行い標的物質に特異的に結合するアプタマーを取得する方法である。通常はこの十数ラウンドの工程を1回の試行とし、取得までに条件を変えながらを4〜5回を繰り返す。一工程は1014種類以上のRNA分子プールと標的物質を会合させ、結合していない分子を洗浄して特異的に結合するRNA分子の存在比率を高め、これを回収後に増幅して再度RNAプールを作製することで終了する。

図1.1工程の各段階におけるRNA量の変化モデル

 この1工程の各段階におけるRNA量の変化モデル(図1棒グラフ:縦軸対数)を示す。スタートのRNA量を1とすると標的物質との結合、洗浄(ポジティブセレクション)でその量を1,000,000分の1程度に絞り込み、RNAからDNA への逆転写反応、テンプレートに含まれる固定配列(P1、P2)を使用したPCR反応、PCR産物をテンプレートとしたRNA転写反応によりスタート時とほぼ同じ量のRNA(1,000,000倍程度)にまで増幅する。この一工程でRNAプール中の高親和性RNAは100倍から1000倍程度に増幅されることが期待される。
 我々は、SELEX法においてRNAプールに「標的物質と結合する」という正の選択圧に対して、取得の難易度を高くしている負の選択圧には大きく分けて2つあるとの仮説を立てた。1つは結合・洗浄時のセレクションにおける分子種存在比率のドリフト、もう一つはセレクション後に分子数を増幅するときに掛かるバイアスである。前者は、強いセレクションを行うと操作上避けられないロスの影響が大きくなることで、標的物質への結合の高い分子も取り零してしまう現象である(図2)。後者は、増幅操作の過程で結合能とは無関係に増幅されやすい分子種の存在比率が高くなることで高親和性分子の比率が低下する現象である(図3)。

図2

 これらに基づき、1)操作上避けられないロス、2)増幅時のバイアスの2点を減らす方法を考案し、アプタマー取得を試みた。これまでに2種類の血中因子を標的とした in vitro selection を行い、従来の方法(10〜20種類/100分子)より高親和性RNAの配列が多様性を保持している(40〜50種類/100分子)プールを取得できた。
 「多様性を保持したアプタマープール」は、統計学的な解析(in silico解析)に適したデータグループであることから、我々の取得したプールから次世代シーケンサーにより得られた数万以上の配列情報をNECソフト㈱が解析することで、アプタマーの取得効率を高める研究を進めている。

(2)HMGB1に結合するアプタマーの作製
 High Mobility Group Box 1 (HMGB1)は生存に必須であり、細胞核内ではクロマチン構造を形成するタンパク質として遺伝子転写時に機能する。一方、細胞外に放出または分泌されたHMGB1は細胞表面の受容体に結合し、炎症反応や細胞の形態変化、移動を促進するサイトカインとして機能する。近年、後者の機能解析が進み、自己免疫疾患や敗血症、外傷性ショック、虚血や虚血再灌流障害がおこる際に炎症反応を悪化させ、細胞死を誘導することが明らかとなり、HMGB1がこれら疾患の診断マーカー、治療の標的となり得ることが示されている。また、がんに関しても、乳がん、大腸がん、メラノーマ、前立腺がん、膵臓がんおよび肺がん等の増殖や浸潤転移にHMGB1が関与する可能性が報告されている。このような背景から、我々は診断薬、治療薬を目標として、HMGB1に結合するアプタマーを作製し、医薬品候補物質とするための研究を行っている。
 HMGB1を標的としてin vitro selection を行い、RNAプールの結合能が十分上昇するまでselectionを8回繰り返した。最終的に得られたRNAプールから24種類、62クローンの塩基配列を決定し各々の結合力を測定したところ、5種類、17クローンで強い結合(1pM < Kd <1nM)が見られた。次世代シークエンサーにより同一のプールから16,392の配列情報を得てin silico解析を行い、複数のアプタマー候補配列を得た。これらの結合力を測定したところ、従来法では取りこぼしていた極めて高い親和性を持つアプタマー(Kd <1pM)を取得することができた。最も強く結合するアプタマーを小型化するために二次構造を予測した。得られた43,864通りの構造候補の in silico 解析により結合に関与しないと判断された塩基を欠損した変異体を作製し、80merのアプタマーから39merへと結合力を維持した状態での小型化に成功した。現在、これらアプタマーの生理活性の評価を行っている。

(3)c-Metに結合するアプタマーの作製
 c-Metは細胞表面に存在する受容体で、hepatocyte growth factor(HGF)が結合することで細胞増殖や分化、アポトーシスの抑制などを引き起こす。また、肺がん、消化器系がんなど様々ながんで発現亢進が報告されている。ある肺がん細胞株ではHGF刺激による細胞増殖や移動能の上昇が確認されていることから、がん細胞の増殖や転移、浸潤への関与が指摘されていて、がん治療の標的物質として注目されている。我々は、HMGB1と同様に、c-Metに結合するアプタマーを作製し、医薬品候補物質とするための研究を行っている。
 タグを含むリコンビナントc-Metに対してin vitro selectionを8ラウンド行った結果、結合能が上昇したRNA プールを得た。このRNA プールは同じタグを持つ他のリコンビナントタンパク質には結合しないため、c-Met分子に結合していると考えられた。このプールから96分子の塩基配列を決定し比較したところ、8種類のクラスターに分類され、全ての配列で特異的な結合が確認された。このプールを次世代シーケンサーで配列解析すると、HMGB1に対するアプタマーと同様に、プラスミドクローニングでは取りこぼしていた強力に結合するアプタマーを多数確認した。修飾塩基導入によりRNase耐性としたアプタマーは、HGF刺激による細胞移動を抑制することが明らかになった。現在、さらなる生理活性の評価と、その作用機序の解析を行っている。

研究活動の概要(辻)

 分子診断研究プロジェクトでは、がんの診断、治療に役立つ生物製剤(バイオ医薬品)の研究と開発を行っている。具体的には、(1)新しい悪性胸膜中皮腫マーカーであるインテレクチンに関する研究と、(2)抗体作製技術の改良と開発を行っている。

(1)悪性胸膜中皮腫マーカー・インテレクチンに関する研究

研究の背景と研究経過

 ヒトインテレクチン-1は、結核菌細胞壁(BCG-CWS)による抗がん免疫賦活効果の研究の過程で、結核菌細胞壁中のガラクトフラノースに特異的に結合する新規蛋白質として発見した生体防御レクチンである。インテレクチンの相同遺伝子はホヤからヒトまでの脊索・脊椎動物間で高度に保存されており、特に抗体が未発達な水生脊椎動物では複数の相同遺伝子からなる分子ファミリーを形成している。これらのインテレクチン相同蛋白質は、全てCa2+イオン依存的にガラクトースに結合する分泌型レクチンであるが、C型レクチンやガレクチンとは一次構造上の類似性はなく、生理的役割も異なっていると考えられる。
 インテレクチン-1は、ヒトの正常組織では主に腸管の杯細胞から消化管内腔に分泌されており、正常血液中にも含まれているが、それ以外の健常組織では蛋白質レベルの発現はほとんど認められない。感染やアレルギーにより気道上皮細胞での発現が増加するほか、寄生虫感染により消化管での発現が強く誘導され、抗酸菌や寄生虫の感染防御に関わっていると考えられている。
 現在、当研究グループではヒトインテレクチン-1について、構造、機能、応用、それぞれの面から研究を進めている。これまでに、ヒトインテレクチン-1を発見し (Tsuji S et al. J Biol Chem 276:23456, 2001)、インテレクチン-1の構造と機能がヒトとマウスで異なること (Tsuji S et al. Glycobiology 17:1045, 2007)、BCG菌体に直接結合し、菌体の貪食排除に関わること (Tsuji S et al. Glycobiology 19:518, 2009) を明らかにしてきた。
 一方、悪性胸膜中皮腫(以下、中皮腫)はアスベストの吸引により発生する極めて予後の悪いがんで、深刻な社会問題を引き起こしている疾患である。神奈川県は川崎、横浜、横須賀とアスベストを多量に使用した工場や造船所が集中していた地域であり、全国でも最悪クラスの中皮腫の多発地帯となっている(図1)。

図1.中皮腫による死亡数の年次推移

 中皮腫は、現在のところ適切な検診方法がなく、確定診断もしばしば困難であるために、早期発見・早期診断が困難である。また、中皮腫は放射線や抗がん剤治療に耐性を示すため、早期症例に対して手術を行う以外に根治が期待できる治療法はなく、早期診断法の開発は中皮腫の治療のために必須の要件と言える。中皮腫はアスベスト曝露後30-40年という長い時間を経て発症するため、日本での中皮腫の発症者は過去のアスベストの使用の増加と平行して2010年頃より急増し、2040年までに10万人に達すると予測されている。従って、中皮腫の早期診断法の開発は、社会的にも喫緊の課題となっている。
 当研究グループでは、横須賀共済病院との共同研究で、インテレクチン-1が中皮腫細胞で特異的に発現し、体液(胸水)中に多量に分泌されることを明らかにし、インテレクチン-1が優れた中皮腫の腫瘍マーカーとなり得ることを発表した(Tsuji S et al. Br J Cancer 103:517, 2010)。また、当研究グループで開発した病理組織切片中のインテレクチン1を検出できるモノクローナル抗体、および血液、胸水中のインテレクチン-1濃度を測定できるELISAキットは、株式会社免疫生物研究所(IBL社)より製品化され、タカラバイオ株式会社を通じて販売されている。

 タカラバイオ株式会社
 ・がん関連抗体 Intelectin-1抗体
 ・悪性中皮腫や代謝関連の研究に Intelectin-1/Omentin-1 ELISA Kit

1)中皮腫と腸管杯細胞におけるインテレクチン-1の特異的発現

 インテレクチンインテレクチン-1は上皮型中皮腫26例中23例(88%)で発現が認められ、この感度は既存の中皮腫マーカーと同等であった。一方、腸管杯細胞を除いて、健常組織ではほとんど発現が見られず、肺癌、腎癌、膀胱癌、胃癌、大腸癌、乳癌、卵巣癌、二相性滑膜肉腫、類上皮血管内皮腫、類上皮血管肉腫など計162症例のうち、インテレクチン-1を発現しているがんは、ほぼ粘液産生がんに限られていた。また、カルレチニンとの二重陽性判定により、計201症例のがんから、感度88%、特異度100%で上皮型中皮腫を判別することが可能であった。染色性、視認性も良好で(図2)、インテレクチン-1が優れた上皮型中皮腫マーカーであることが明らかとなった(Washimi et al. PLoS One 7: e39889, 2012)。

図2.中皮腫マーカーによる上皮型中皮腫の免疫染色

2)新規中皮腫特異的診断マーカーの開発

 中皮腫細胞を用いて抗中皮腫モノクローナル抗体を30種類作製した。このうち、3クローンについて中皮腫および他のがんへの反応性を解析した。その結果、1クローンが中皮腫に対して感度特異性ともに極めて高く、既存の中皮腫マーカー(カルレチニン、インテレクチン、ポドプラニン、WT-1、メソテリン)と比較して優れていることが明らかとなった。また、他の2クローンについても、中皮腫に対して比較的特異性の高い染色性を示した。そこでこれらの抗体が認識する抗原を精製し、MALDI-TOFを用いた抗原同定を行った。同定された抗原はこれまでに中皮腫マーカーとして報告されている分子ではなく、新規の中皮腫マーカーになり得ると考えられた(投稿準備中)。

3)中皮腫細胞におけるインテレクチン-1の発現調節領域の解析

 中皮腫に特異的なインテレクチン-1の発現誘導機構を解析するため、インテレクチン-1のプロモーター領域の解析を行った。中皮腫細胞株Acc-Meso-1およびAcc-Meso-4におけるインテレクチン-1の主要なプロモーターは、転写開始点の約30 bp上流に存在するTATAボックスと考えられたが、発現能は弱く、さらに上流域を2000 bp程度まで解析しても明確なエンハンサーを見いだすことは出来なかった。そこで、第一イントロンを含む転写開始点下流310 bpまでを解析したところ、220-292 bpの領域に強いエンハンサー活性が認められ、中皮腫細胞でインテレクチン-1の発現を強く誘導する一因となっていると考えられた。現在、エンハンサー領域を確定するために、更なる解析を行っている。

4)インテレクチンのCa2+依存性の解析

 インテレクチン-1は精製後不溶化しやすく、生理活性である糖結合性を保ったまま精製標品を得ることは不可能であった。そこで精製条件の検討を行い、糖結合能を回復した精製インテレクチン-1を得ることに成功した。インテレクチン-1の糖結合能の二価金属イオン依存性はCa2+>Mn2+≥Sr2+であり、他の二価イオンでは糖結合能は確認できなかった。Ca2+の有無による多量体形成は確認されなかったが、Ca2+により抗体で認識できる立体構造変化が生じており、分子内部に新規のCa2+結合ドメインが存在すると考えられた。現在、Ca2+結合ドメインの解析を行っている。

5)抗体作製技術の改良と開発

研究の背景と現在までの研究経過

 当研究部では、RNAアプタマー(標的に特異的に結合するRNA分子)の作製効率を飛躍的に高めたSELEX-T法を開発し (Tsuji S et al. BBRC 386:223, 2009)、様々な標的に結合するRNAアプタマーを単離している。中でもHisタグに対して数pMオーダーの親和性(抗体の1000倍)を持つRNAアプタマーshot47は、Hisタグ付加蛋白質と事実上解離が認められない安定な複合体を形成する (Tsuji S et al. BBRC 386:227, 2009、特願2009-119269、PCT/JP2010/058221)。
 現在、shot47を利用した新しい人工抗体の作製法(Hishot法)を考案し研究を行っている。Hishot法は、Hisタグが付加された抗体配列をコードする遺伝子を合成し、shot47の配列をmRNAの非翻訳領域に挿入した大腸菌発現プラスミドを構築することで、大腸菌を用いて人工的にモノクローナル抗体作製を行う方法である。既存の人工抗体作製法であるファージディスプレイ法やリボゾームディスプレイ、In vitro virus法と比べ、特殊な試薬や装置、技術的な熟練を必要とせずに、簡便かつ安価に試行できる利点があり、動物を用いて抗体が作製できない抗原に対し、抗体を提供できる可能性がある。これまでに、高効率のライブラリの作製法とHishot法の標準プロトコルを確立し、特許出願を行っている(特願2010-085545、PCT/JP2011/058249)。
 現在、インテレクチンおよびTNF-αに対して特異的に結合する抗体フラグメントのクローンを得ており、実用的な人工抗体作製法として原著論文での発表を準備中である(投稿準備中)。

研究テーマ (山田)

 分子標的薬の登場に伴い、分子基盤にかかわる基礎研究の成果を臨床へ還元していく過程に必要とされる研究 Translational Research (TR) が同時に発展することが必要とされている。神奈川県立がんセンターでは多岐におよぶ悪性腫瘍の集学的治療をおこなっており、臨床研究所において切除標本の凍結バンクおよび組織アレイを作製し、多くの標的分子を明らかにしてきた。その標的分子を創薬に応用し癌治療におけるTRシステムの確立を目指すことが我々の次なる使命である。一方、我々の共同研究者である南カリフォルニア大学(以下USC)薬学部 Neamati博士の研究室では、コンピューター解析からタンパク質の3次構造を解析し、ドラッグデザインに応用するSBDD (Structure Based Drug Design) をおこなっており20余の特許を取得している。多種で豊富な手術検体数を有し多数のゲノム情報を有する当センター研究所と膨大な構造ゲノミクス情報を有するUSC薬学部がコラボレーションすることで、固形癌に関する最新の標的分子をゲノム創薬に応用することが可能となり、TRシステムの確立につながる。

図1.抗腫瘍薬分子構造デザインプロジェクト

これまでの研究経過

1)新規化合物の開発

 前述のUSC研究室においてHigh Through Screening (HTSを用いて独自に開発した化合物Propanyl Acetyl Carbamyde Methyl Amides (PACMAs) は多種の癌に対する抗腫瘍効果を有(Yamada R, Neamati N et al. J Med Chem; April 28: 54 (8): 2902-2914, 2011) 米国特許を取得(特許 WO 2012/129452)、卵巣癌細胞株に対する殺細胞効果の標的分子がPDI (Protein Disulfide Isomerase) であることを見出した。

2)Drug Delivery Systemの開発

 現在までにαvβ3 integrinをtargetにしたpaclitaxel (Chen X, Neanati N et al. J Med Chem. Feb 24; 48(4): 1098-1106, 2005)、Matrix metalloproteinase 2をtargetにしたpaclitaxel (Yamada R, Neamati N et al. Cancer Biol Ther. Feb9(3): 192-203, 2010)を創薬し、新しいdrug delivery systemになりうる可能性を示した。

今後の研究計画

 難治性固形腫瘍(膵癌、甲状腺未分化癌)に対するPDI阻害薬の有効性を明らかにする。

1)PDIと癌細胞死との関連(ERストレスとの関連を中心に)を解明する

 PDIは癌細胞死に関わっている。先の申請者らの報告でもPDIをノックダウンした卵巣癌細胞は著明に増殖能が低下することが報告されている。PDIは細胞ストレスによって生じた変性タンパクを修復することで、過度のERストレス下のアポトーシスによる細胞死を回避している。しかしながらこの経路における調節機構に関しては未知の部分が多い。本研究ではPDIとERストレスによるアポトーシスとの関連を解明する。次にマウスを用いた動物実験をおこない、腫瘍組織におけるPDIの発現と生体内におけるPACMA31の腫瘍増殖抑制効果との関連を調べる。

2)難治性固形腫瘍におけるPDIの発現と臨床病理学的特徴との関連

 神奈川県立がんセンターで切除した膵癌、甲状腺未分化癌をの切除標本を用いてPDIの免疫組織染色をおこない、臨床病期、抗癌剤への感受性、生命予後との関連を調べる。膵癌に対する化学療法はgemcitabineの登場以来、単独療法あるいは分子標的薬との併用療法で多くの臨床試験がおこなわれている。しかしながらgemcitabine単独療法よりも明らかに優れた治療法は未だに見出されておらず、平均生存期間は最長で10カ月程度にとどまる。また甲状腺未分化癌においては標準治療すら存在せず1年生存率は10%未満であるのが現状である。したがって両者を治療するにあたっては新しい標的分子の発見とそれをターゲットとした治療薬の創薬が急務である。従来PDIの機能不全はアルツハイマー病やパーキンソン病を引き起こすと考えられてきたが、近年様々な癌組織においてPDIが高発現していることと、PDIの活性阻害がアポトーシスを誘導することが報告されておりPDIは癌の新たな治療標的分子と考えられている。
 PACMA31は我々が、世界に先駆けて創薬した経口PDI阻害薬であり(特許 WO 2012/129452)、多種の固形腫瘍への応用が期待される。我々らは予備的な検討でPDI高発現の細胞株に対しPDI阻害薬が高い殺細胞効果を示していること、切除標本の免疫組織染色では癌細胞にPDIの高発現を認めるなど興味深い結果を得ている。また南カリフォルニア大学薬学部創薬部門との共同研究により、タンパク3次元構造解析に基づいたPDI阻害薬のさらなる改良をおこない、当センター臨床部門との共同研究によってPDI阻害薬臨床応用のための基盤研究をすすめていく。

がん治療学部の研究業績

各学部の研究活動